タバコ対策

タバコ対策は優先順位第一位!

このページではタバコ対策が重要である理由について解説します。

  1. タバコ対策が優先順位第1位の根拠
  2. なぜ、受動喫煙防止対策が必要なのか

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注)[]内の数字は末尾に提示した引用文献の番号です。

1.タバコ対策が優先順位第1位の根拠:日本人が命を落とす原因の第1位がタバコです。

タバコ対策は、日本において取り組むべきがん対策のなかでも、優先順位が第一位に位置づけられるものです。なぜなら、タバコは危険因子のなかで、もっとも死亡やがん罹患・がん死亡に関与している要因だから[1-3]です。図1に示すとおり、日本の非感染性疾患および外因による死亡において喫煙が最大の原因であり、12万8900人が喫煙が原因で死亡していました。

図1.2007年の日本における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数(男女計)

図1.2007年の日本における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数(男女計)
出典:健康日本21(第二次)8ページ
   Ikeda N, et al.: PLoS Med, 9: e1001160, 2012

男女別にみると、日本人男性(図2)では喫煙が最大の死因(第1位)であるのに対して、女性(図3)では喫煙が高血圧に次ぐ死因の第2位でした。

図2.図1と同じく(男性)

図2.図1と同じく(男性)

図3.図1と同じく(女性)

図3.図1と同じく(女性)

一方、大阪府においては男女ともに喫煙が死因の第1位でした(図4および図5)。タバコを吸う人を減らすことが最も効果のあるがん対策だと言えます。

図4.2010年の大阪府における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数(男性)

図4.2010年の大阪府における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数(男性)
出典:「 科研基盤A :我が国の疾病負担(Burden of Disease)に関する包括的研究 」
   (研究代表者:渋谷健司、東京大学教授)
    http://kaken.nii.ac.jp/d/p/25253051.ja.html

図5.図4と同じく大阪府における死亡数(女性)

図5.図4と同じく大阪府における死亡数(女性)

2.なぜ、受動喫煙防止対策が必要なのか

タバコの煙は喫煙者本人だけでなく、タバコを吸わない周囲の人々の健康にも悪影響を及ぼします。健康を守る立場から受動喫煙の防止に取り組むことが必要です。


受動喫煙とは?受動喫煙の害

受動喫煙とは「他人のたばこの煙を吸わされること」です。たばこの煙には発がん物質等の有害な化学物質が非常に多く含まれています。受動喫煙により日本全体で年間6800人が死亡し [4]、心筋梗塞や肺がん等の病気にかかる者が増え、大人だけでなく子供の呼吸器感染症・ぜんそく等の発病や入院が増えることが明らかになっています [5-8]。短時間の受動喫煙であっても、害は即座に起こり、蓄積されます [5, 9]。
平成21年に厚生労働省によりまとめられた「受動喫煙防止対策のあり方に関する検討会報告書」では、受動喫煙は喫煙者による「他者危害」であることが指摘されています [10]。喫煙は個人の健康問題にとどまらず、他者に害を及ぼす大変な公共問題です [11]。誰にも他人に危害を加える権利はなく、誰もが受動喫煙の害から保護されるべきだと考えられます [11]。

イラスト出典:日本肺癌学会「喫煙問題に関するスライド集」

イラスト出典:日本肺癌学会「喫煙問題に関するスライド集」
http://www.haigan.gr.jp/modules/nosmoke/index.php?content_id=13

日本における受動喫煙防止の取組

日本の職場における従業員を受動喫煙から守る取組は遅れていると言わざるをえません [12]。健康増進法第25条「受動喫煙の防止」ならびに厚生労働省健康局長通知「受動喫煙防止対策について」(平成22年)及び「受動喫煙防止対策の徹底」(平成24年)[13, 14]において、受動喫煙防止対策の方向性に関して「受動喫煙のない職場の実現」が目標であり、「多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべき」ことが明記されています。平成22年12月労働政策審議会は「今後の職場における安全衛生対策について(建議)」[15]の「職場における受動喫煙防止対策の抜本的強化」において「労働者の健康障害防止という観点から、一般の事務所、工場等については、全面禁煙や空間分煙とすることを事業者の義務とすることが適当である」としています。受動喫煙を完全に防止するために、全面禁煙が極めて困難な場合等を除いて、全面禁煙を推進することが求められます。

出典:日本肺癌学会「喫煙問題に関するスライド集」

出典:日本肺癌学会「喫煙問題に関するスライド集」
   http://www.haigan.gr.jp/modules/nosmoke/index.php?content_id=13
   厚生労働省分煙効果判定基準策定検討会報告書
   http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/06/h0607-3.html

原則として全面禁煙であるべき施設として厚生労働省健康局長通知[13, 14]は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店」を明示し、「その他の施設」には、「鉄軌道駅、バスターミナル、航空旅客ターミナル、旅客船ターミナル、金融機関、美術館、博物館、社会福祉施設、商店、ホテル、旅館等の宿泊施設、屋外競技場、遊技場、娯楽施設等多数の者が利用する施設を含む」としています。これらの施設を管理する者には、受動喫煙を防止する措置をとる義務が課されています [14]。平成22年の厚生労働省による報告書[12]においても指摘されているように、労働者の健康障害防止という観点から、雇用主には安全配慮義務があり、従業員がたばこの煙にさらされないように対策を講ずる必要があります [12]。

世界の受動喫煙防止対策と日本で求められること

世界の多くの国で、職場・公共の場所の受動喫煙防止対策が法律・条例等に基づき順次すすめられています [16, 17]。受動喫煙防止条例により心筋梗塞による入院数が減少したこと等健康への好ましい影響が世界各国から報告されています [17-20]。受動喫煙防止に取り組むことにより住民の健康を向上できるのです。日本では、2010年に神奈川県、2013年に兵庫県において受動喫煙防止条例が施行されています(下図)。
厚生労働省による労働者健康状況調査 [21]によると、働く人の2人に1人が、受動喫煙を職場で体験していました。規模の小さい事業所を中心に2割近い職場ではいまだに受動喫煙防止対策がとられていません。カリフォルニアでは、バーでの喫煙が禁止されたのち、バーの従業員の呼吸器系の健康状態が改善しました [22]。しかし、受動喫煙防止対策を推進する過程において、他の職場と比較して「バーの従業員がもっともたばこの煙にさらされているにもかかわらず、ほとんど保護されていない」という状況が認められています [11]。日本においても誰もが受動喫煙の害から守られるように着実に受動喫煙防止対策をすすめていくことが求められています [13, 17]。

神奈川県の受動喫煙防止条例で用いられているロゴマーク

神奈川県は、受動喫煙による健康への悪影響から県民を守るため「受動喫煙防止条例」を制定しました。2010年4月1日から施行されています。図は神奈川県の受動喫煙防止条例で用いられているロゴマークです。
出典:神奈川県 http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f6955/p23021.html

引用文献

  1. Ikeda, N., et al., Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and injuries in Japan: a comparative risk assessment. PLoS Med, 2012. 9(1): p. e1001160.
  2. Inoue, M., et al., Attributable causes of cancer in Japan in 2005--systematic assessment to estimate current burden of cancer attributable to known preventable risk factors in Japan. Annals of Oncology, 2012. 23(5): p. 1362-9.
  3. Katanoda, K., et al., Population attributable fraction of mortality associated with tobacco smoking in Japan: a pooled analysis of three large-scale cohort studies. Journal of epidemiology, 2008. 18(6): p. 251-64.
  4. 片野田耕太, et al., わが国における受動喫煙起因死亡数の推計. 厚生の指標, 2010. 57(13): p. 14-20.
  5. U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control, Office on Smoking and Health, The Health Consequences of Involuntary Smoking: A Report of the Surgeon General2006, Rockville, USA
  6. Hirayama, T., Cancer mortality in nonsmoking women with smoking husbands based on a large-scale cohort study in Japan. Preventive Medicine, 1984. 13(6): p. 680-90.
  7. Kanoh, M., et al., Longitudinal study of parental smoking habits and development of asthma in early childhood. Preventive Medicine, 2012. 54(1): p. 94-6.
  8. 大阪府衛生対策審議会, 大阪府受動喫煙防止対策のあり方について 報告(答申)2012, 大阪
  9. Frey, P.F., et al., The exposure-dependent effects of aged secondhand smoke on endothelial function. Journal of the American College of Cardiology, 2012. 59(21): p. 1908-13.
  10. 厚生労働省, 受動喫煙防止対策のあり方に関する検討会報告書2009, 東京
  11. Chapman, S., Public Health Advocacy and Tobacco Control: Making Smoking History2007, Oxford, UK: Blackwell Publishing Ltd.
  12. 職場における受動喫煙防止対策に関する検討会, 職場における受動喫煙防止対策に関する検討会報告書2010: 厚生労働省.
  13. 厚生労働省健康局長通知 健発1029第5号, 受動喫煙防止対策の徹底について2012: 厚生労働省.
  14. 厚生労働省健康局長通知 健発0225第2号, 受動喫煙防止対策について2010: 厚生労働省.
  15. 労働政策審議会, 今後の職場における安全衛生対策について(建議) 労審発1222第597号2010, 東京 厚生労働省.
  16. Callinan, J.E., et al., Legislative smoking bans for reducing secondhand smoke exposure, smoking prevalence and tobacco consumption. Cochrane Database Syst Rev, 2010(4): p. CD005992.
  17. World Health Organization. WHO Framework Convention on Tobacco Control. 2003 [cited 2013 1 July]; Available from: http://whqlibdoc.who.int/publications/2003/9241591013.pdf.
  18. Tan, C.E. and S.A. Glantz, Association between smoke-free legislation and hospitalizations for cardiac, cerebrovascular, and respiratory diseases: a meta-analysis. Circulation, 2012. 126(18): p. 2177-83.
  19. Mackay, D., et al., Smoke-free legislation and hospitalizations for childhood asthma. New England Journal of Medicine, 2010. 363(12): p. 1139-45.
  20. International Agency for Research on Cancer, IARC Handbooks of Cancer Prevention Tobacco Control Volume 13: Evaluating the Effectiveness of Smoke-free Policies2009, Lyon, France
  21. 厚生労働省, 労働者健康状況調査2012, 東京
  22. Eisner, M.D., A.K. Smith, and P.D. Blanc, Bartenders' respiratory health after establishment of smoke-free bars and taverns. JAMA, 1998. 280(22): p. 1909-14.