限られた予算で実施する効果的ながん対策 ―市町村が実施するがん検診について―
国のがん対策基本計画では、「がん検診」受診率を50%以上とする目標が設定されています。一方、2008年4月より特定健診が医療保険者に義務付けられたことにより、従来の「基本健康診査」に該当するものと「がん検診」が分離して行われるようになりました。このため、従来、市町村のがん検診を受診していた社会保険の被扶養者が、受診できないと誤解したり、人的負担増や行政の財政難により、「がん検診」受診率が低下している市町村もみられるようです。このような状況下で、がん対策基本計画のがん検診受診率の目標達成はほとんど不可能と考えられます。
そこで、大阪府の市町村においてがん検診事業に従事する関係職員を対象に、限られた予算とマンパワーで実施可能なより効果的ながん検診体制について検討する講演会を実施しました。
講演会の各発表スライドのダウンロードが可能です。
特別講演
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島田 剛延(宮城県対がん協会 がん検診センター副所長)
「対象者名簿を作成した効率的な受診勧奨の試み」
がん検診の受診率向上対策として米国のCDCのcommunity Guideでは、手紙や電話等による勧奨・再勧奨、スモールメディア、検診の提供者の評価とフィードバックが、いずれのがん検診に対しても証拠が十分であるとしている。しかしこれらはすべて単独での効果は10数%程度の受診率の向上が期待できるにすぎず、がん検診受診率50%以上を目標とする場合は、これらの手法を組み合わせて行う必要がある。
欧米の高いがん検診受診率の背景には、対象者を特定して受診勧奨を行うCall-Recall systemの確立がある。東北地方で個別通知を導入したところ受診率が向上したという報告が複数ある。また胃・大腸癌検診で未受診者に個別受診勧奨を行ったところ7~10%の受診率の向上が観察された。個別通知は費用や手間がかかるもののチラシや広報等に比べれば、受診率の向上が期待される方法であり、各自治体で導入を考慮すべきと考えられる。
パネルディスカッション
- テーマ
- 限られた予算で実施する効果的ながん対策
- 座 長
- 津熊 秀明(大阪府立成人病センター がん予防情報センター長)
- パネリスト
- 島田 剛延(宮城県対がん協会 がん検診センター副所長)
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中山 富雄(大阪府立成人病センター がん予防情報センター疫学予防課長)
「有効性が確認されたがん、そうでないがん」
市町村が公費を用いて行うがん検診は、利益である有効性(死亡率減少効果)が確認され、かつ利益と不利益とのバランスが担保されたものでないといけない。現時点でこれらが確認され推奨されている検診は、細胞診を用いた子宮頸癌・便潜血検査を用いた大腸癌・胃X線検査を用いた胃癌・非高危険群に対しての胸部X線検査および高危険群に対しての胸部X線検査と喀痰細胞診併用法による肺癌検診が該当する。マンモグラフィを用いた乳がん検診に関しては50歳以上に対しては国際的にも推奨されているものの、40歳代に関しては、2009年末に更新されたUSPSTFでは不利益が無視できないという観点から推奨できないとされている。罹患のピークが我が国と米国では異なるものの40歳台への是非に関しては、議論が必要である。
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井岡 亜希子(大阪府立成人病センター がん予防情報センター企画調査課長補佐)
「地域がん登録からみた大阪府のがんの生存率・進行度―他府県との比較」
罹患や死亡、早期診断割合などのがん統計値を活用した、がんの二次予防における対策の企画・評価の方法を紹介した。がんの早期診断割合を他県と比較したところ、大阪府の胃、結腸、乳がんの早期診断割合は他県より低く、5年生存率は胃、結腸、乳、子宮頸がんで低い傾向にあった。しかしながら、早期に診断された(診断時のがんの拡がりが「原発臓器に限局している」)患者の生存率は他県と同等であることから、大阪府では早期診断割合の増加が必要であり、がん検診の優先順位が他県と比べて高いことが示唆された。また、死亡率減少効果の期待できる有効ながん検診を有するがんでは、罹患率と死亡率が乖離のある状態で推移するが、その乖離の程度が大阪府では宮城や山形、神奈川のように大きくなる傾向は認められていない。このことからも大阪府ではがん検診の効果が十分に得られていない、よって、がん検診の優先順位の高いことが示唆された。
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伊藤 ゆり(大阪府立成人病センター がん予防情報センター リサーチ・レジデント)
「がんの性質と年齢を考慮した効果的ながん検診―乳がん・子宮頸がん検診を例に―」
世界におけるがん検診実施体制を参考に、検診体制の分類(Organised screening, Population-based screeningの定義)を概観した。また諸外国における乳がん・子宮頸がんにおける検診受診間隔および対象年齢(下限、上限)を、その根拠となった研究論文の紹介を交えて報告した。Population-basedで行われている国では研究成果に基づく適切な検診受診間隔や、年齢の下限・上限が設定されていることを紹介した。また、大阪府におけるがん患者の年齢分布や人口構成を紹介するとともに、複数年の受診間隔のメリットを紹介した。