罹患率(りかんりつ)と死亡率

罹患率(りかんりつ)と死亡率

がん統計を見る上で、よく出てくるがんの「罹患率(りかんりつ)・死亡率」について、お話したいと思います。

どのようながんが増えているか減っているかを知ることは、がん対策において大切な柱の一つです。私たちはこのことを知るために、がんの「罹患率(りかんりつ)」と「死亡率」という数値を調べています。


罹患率ってなに?

「罹患」は「りかん」と読みます。
病気になるという意味で、ここでは「がんになる」、つまり、「がんと診断される」ことを意味します。

大阪府では、大阪府に住む方のうち、毎年何人の方ががんと診断されたかを、「がん登録」という仕組みを使って把握しています。
例えば、2000年にがんと診断された人数を「2000年のがんの罹患数(りかんすう)」といい、この人数を2000年の人口で割ったものを「2000年のがんの罹患率(りかんりつ)」と呼んでいます。

がんの死亡率

がんの死亡数はある年に「がんが原因で亡くなった方の人数」を意味します。
死亡の原因に基づく統計は、厚生労働省で人口動態統計として把握されています。
もちろん、がんだけでなく他の死因(心疾患や脳血管疾患、自殺など)も集計されています。
法律(統計法)で定められているため、日本に住む人が日本で死亡すると必ずその死因が把握されているということになります。
したがって、がんだけでなく、都道府県別○○死亡率という統計も存在します。

例えば、2000年にがんが原因で亡くなった方の人数は「2000年のがんの死亡数」といいます。
その方々がいつがんと診断されたかは区別されません。
2000年のがんの死亡数を2000年の人口で割ると「2000年のがんの死亡率」になります。

どう違うの?何で両方いるの?

この二つの統計値の意味や違いを考えてみましょう。

死亡率:その病気が原因で死亡した人がどのくらいいるか
罹患率:その病気にかかった人がどのくらいいるか

死亡率はその病気が社会において人の命を奪うインパクトの大きさを示しています。

つまり、がんの死亡率および死亡数は現在我が国の死因において第一位ですが、これはわが国において、がんが原因で命を落とす人が一番多いという意味になります。

しかし、がんになった人がどのくらいいるか増えているか減っているかは「がんの罹患率」でしかわかりません。

がんの種類によっては、治りやすさが異なるので、死亡で罹患の代用をすることができませんので、がんのような病気では、がんで死亡した人の数(死亡数)を知るとともに、がんになった人の数(罹患数)を知る必要が出てきました。また、人口当たり何人であるかを示す罹患率、死亡率を観察することが大切です。

二つを並べてみる

がんの「罹患率」と「死亡率」の変化を一緒に観察することはがんの対策を考える上で重要です。

毎年の変化を比べるときには、高齢化の影響を取り去るために、年齢調整という細工をします。詳しい計算は「年齢調整とは?」をご参照ください。

がんの年齢調整死亡率と年齢調整罹患率が年々どのように変化しているかを見てみます。

まず、罹患率と死亡率の離れ具合についてみていきます。がんと診断された方がある一定期間後に全員そのがんで死亡する場合、下の図のように、年齢調整罹患率と死亡率の差はほとんどありません。

罹患年・死亡年

しかし、そのがんで死亡しない人が多い場合には下の図のように罹患率と死亡率に差(かい離)が生じます。

罹患年・死亡年

年齢調整罹患率と死亡率の年次推移を並べてみて、二つの値の増加・減少の様子や、このかい離の程度がどのように変化しているかを観察することで、その部位のがんのリスクや予防・治療がどのように変化しているかを確認することができます。
下の4つのグラフを見てください。

A.罹患・死亡ともに増加(平行)

A.罹患・死亡ともに増加(平行)

例えば、Aのグラフのように罹患・死亡ともに同じように増加している場合、「がんにかかるリスク(原因)が増加」し、「がんの早期診断や治療法に特に変化がない」ため、「生存率(がんにかかった人が一定期間後に生存している割合)の向上も見られない」ときにこのような傾向になります。
そのがんについては、その原因を調査し、可能であれば予防することが必要です。

B.罹患・死亡ともに減少(平行)

B.罹患・死亡ともに減少(平行)

Bのグラフのような場合、がんになる人が減っているため、そのがんで死亡する人が減少しています。
つまり、そのがんになるリスク(原因となるもの)自体が減っているということになります。

C.罹患は増加ののち横ばい、死亡は減少

C.罹患は増加ののち横ばい、死亡は減少

Cのグラフは、新しい診断技術が開発され、がん検診で取り入れられたときに見られる傾向です。
今までがんと診断されなかった方ががんと診断されるようになり、がんの罹患率が増加していきます。
やがて、その検診が定着すると罹患率は落ち着きます。
そして、そのがん検診が効果的である場合(早期に発見し、治療を行うことでそのがんで死亡する人が減少する場合)、死亡率が減少していきます。

D.罹患は増加, 死亡は横ばい

D.罹患は増加, 死亡は横ばい

Dのグラフは、新しい診断技術が開発されて、がんと診断される人が増えていくというところまではCと同じなのですが、そのがん検診で早い時期にがんと診断されただけで、そのがんで死亡する人は減らないというパターンです。
このようなパターンになるときには過剰診断(overdiagnosis)とも言われます。

がんは早く見つけられれば見つけられるほどよいのでは!?と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。

上の4つのパターンの他にも、がんの治療法がよくなり、生存率が向上し死亡率の減少につながるというパターンも考えられ、これらが複雑に影響するので、罹患率や死亡率の変化だけでなく、生存率の変化も合わせてみていくことも大切です。