がん検診によるがんの早期発見
がん検診の受診率向上に向けて!
諸外国と比較した日本のがん検診受診率
日本の検診受診率は、国際的に低い値となっています。アメリカと比べると約40ポイントも下回っています。医療費の高いアメリカでは、雇用主提供医療保険や公的医療保険の多くでカバーできる予防医療(検診など)をかかりつけ医が勧めており、その結果、高い受診率を保っているものと考えられます。二番目に受診率の高いイギリスでは、国策として組織型検診が実施されています。検診の対象がきちんと明確化され、個人が特定化された名簿に基づいて受診勧奨を行う体制が整っているため、高い受診率を維持できています。
未受診理由
日本のがん検診受診率は約40%で、未受診者が6割近くにのぼります。では、どういった理由で検診を受けないのでしょうか。内閣府が実施しているがん対策に関する世論調査で、以下のような理由が抽出されました。
「受ける時間がない」「健康状態に自信があり必要性を感じない」「心配な時は医療機関を受診できる」などの回答が多かったことから、がん検診についてその重要性や正しい知識が定着していないと考えられます。また、「経済的負担」を上げている人も多くみられました。市町村のがん検診は安価で受診することが出来るため、それについて知られていない可能性があります。がんや検診について正しい知識や情報を発信していく必要があります。また、女性は「検査に伴う苦痛に不安がある」の回答も多かったため、勧奨の段階から検査方法について案内する等、不安を取り除くためのサポートが必要と考えられます。
未受診者の特徴
受診率を上げるためには未受診者への受診勧奨は必須です。しかし我が国では、市町村で受診する者、職場で受診する者、人間ドックなどを任意で受診する者など、検診を提供する機関は多数存在し、それらのデータを一括に集約する仕組みがありません。そのため、誰がどこのがん検診を受けたのか、未受診者は誰なのかを把握することは困難です。未受診者を特定することはできませんが、未受診者が多く潜んでいる集団であれば明らかになっています。
図3のグラフは、医療保険種別にみたがん検診受診率を示しています。医療保険種別にがん検診受診率を比較すると、全ての部位のがん検診で市町村国保(市町村の国民健康保険加入者)の受診率が男女とも一番低くなっています。市町村国保のがん検診受診率は、胃・大腸・肺がん検診は約20%、乳・子宮頸がん検診は約30%と非常に低い値で、共済組合と比べると25~40ポイントも低くなっています。つまり、市町村国保の7~8割が検診を受けていないという結果が示されました。詳細は論文(日本医事新報. 2012; 4605: 84-88)を参照してください。
健康日本21(第二次)において健康格差の縮小が目標としてかかげられています。健康格差を縮小するためにも、がん検診の受診率が低い集団に対して再度検診の案内を送るなど、重点的な受診勧奨を実施する等の工夫が必要だと考えられます。
受診勧奨について
<効果的な受診勧奨>
受診率向上のためにはどのような勧奨方法が有効なのでしょうか。米国疾患予防管理センターが受診勧奨方法について、それぞれ有効性を示しています(表4参照)。これによると、手紙や電話による個別受診勧奨・再勧奨(コール・リコール)、ビデオやパンフレットなどで検診の情報提供や動機づけを行う勧奨、検診受診の指示し、検診のメリットや受診を妨げている要因を克服する方法について医療従事者が1対1で教育する勧奨、さらに複数の方法を組み合わせた勧奨などがその効果について認められています。
表4 受診勧奨方法の有効性
受診勧奨方法 | 受診率向上効果 | ||
---|---|---|---|
乳がん検診 (マンモグラフィ) |
子宮頸がん検診 (細胞診) |
大腸がん検診 (便潜血検査) |
|
手紙による受診勧奨・再勧奨 (コール・リコール) |
効果あり | 効果あり | 効果あり |
スモールメディア (ビデオ・手紙やパンフレットなど) |
効果あり | 効果あり | 効果あり |
1対1の教育 (医療従事者による勧奨) |
効果あり | 効果あり | 効果あり |
費用以外の障害物の除去 (アクセス向上など) |
効果あり | 証拠不十分 | 効果あり |
自己負担費用の軽減 (検診費用の補助など) |
効果あり | 証拠不十分 | 証拠不十分 |
グループ教育 | 効果あり | 証拠不十分 | 証拠不十分 |
マスメディア | 証拠不十分 | 証拠不十分 | 証拠不十分 |
複合的アプローチ | 効果あり | 効果あり | 効果あり |
(データ元:CDC community guide)
<個別受診勧奨と再勧奨(コール・リコール)>
米国疾患予防管理センターにおいて、受診率向上の有効性が認められている「個別受診勧奨と再勧奨(コール・リコール)」を実施しているイギリスでは、高い受診率を保っています。一方、日本ではコール・リコールを実施している市町村はわずかしかありません。
大阪府の池田市で、この個別受診勧奨と再勧奨(コール・リコール)を取り入れた勧奨で受診率を検証した研究が行われました。平成21・22年度に国の事業で実施された無料クーポン券の配布(個別受診勧奨/コール)後、無料クーポンの期限が切れる3ヶ月前に、クーポン未使用者(未受診者)の一部の年齢の対象者に対して、再度受診勧奨(再勧奨/リコール)を実施しました。無料クーポン券送付に伴う個別受診勧奨(コール)の受診率は、対照群と比較して約20%高く、大きな効果が得られました。また未受診者への再勧奨まで行った受診率は、個別受診勧奨までと比較して約10%高く、再勧奨まで行うことでさらに大きな効果が得られます(図9参照)。このように、我が国においても個別受診勧奨と再勧奨を行えば、受診率向上につながります。大阪府で行われた研究の詳細については、論文(公衆衛生. 2012; 76(10):827-32)を参照してください。
<大阪府の取り組み>
対象者全員に個別受診勧奨及び再勧奨(コール・リコール)を実施するには、膨大な予算とマンパワーを要します。限られた資源の中で効率的な運用を図ろうと、大阪府では「がん検診重点受診勧奨対象者」を設定しました(表5参照)。
表5 大阪府のがん検診重点受診勧奨対象者
胃がん | 大腸がん | 肺がん | 乳がん | 子宮頸がん | |
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 60歳~69歳 | 50歳~69歳 | 25歳~44歳 |
市町村が実施するがん検診の受診勧奨の多くは広報誌やインターネットを用いて行われてきました。しかし、個人を特定しない受診勧奨が受診率向上につながるという科学的な根拠はありません。受診率の向上には対象者個人を特定し郵便や電話などによる受診勧奨と、受診勧奨したが受診しない未受診者への再勧奨をセットとした勧奨が有効です。このような受診勧奨を市町村の限られた資源の中で実施できるように、がん罹患率、がん死亡率、年齢(侵襲的ながんの診断や治療に耐えうる)、検診の偽陽性、受診率の低い集団(国民健康保険者など)など様々な点を考慮して、「がん検診重点受診勧奨対象者」は設定されました。平成26年度より始まったこの重点受診勧奨対象者の考え方は大阪府内の市町村で浸透しつつあり、重点受診勧奨の対象者を考慮した受診勧奨が実施されています。平成27年度は個別受診勧奨を実施した市町村の半数が重点受診勧奨の考えを取り入れていました。
受診率向上を目指して、がん検診対象者全員へのポピュレーションアプローチと重点受診勧奨対象者への重点的なアプローチを行うのも、受診率向上への1つの手段です。重点受診勧奨対象者の詳細は大阪府のホームページをご参照ください。