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がんの転移や炎症を促進するシアル酸糖鎖の合成の仕組みを発見

Press Release

2021年2月22日

 

がんの転移や炎症を促進するシアル酸糖鎖の合成の仕組みを発見

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 地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター研究所長 谷口直之と同研究所 糖鎖オンコロジー部所属のグループは、がんの転移に関わるシアル酸含有糖鎖が合成される新たな仕組みを発見し、2021年1月29日、米国生化学分子生物学会 (ASBMB)の機関紙Journal of Biological Chemistryのオンライン版に論文が掲載されました。

 私たちの身体にあるタンパク質の半分以上には、糖鎖※1と呼ばれるブドウ糖などの糖が鎖のように連なったものが付いており、タンパク質の働きの調節に重要な役割を果たしています。がん細胞には、正常とは異なる特殊な糖鎖が付いていることが特徴で、がん細胞がどんどん増えて多臓器に転移したり、正常細胞を壊したりするなど、がんが自分勝手なふるまいをする原因の一つとなっています。これらの糖鎖は細胞内のゴルジ体※2にある200種類ほどの糖転移酵素※3によって作られます。がん細胞においてどのような仕組みで特徴的な糖鎖が作られ、またその量や細胞内の分布が調節されているのかを知ることは、がんを理解し、診断、治療するのに大変重要ですが、未だ解明されていませんでした。

 本研究では、シアル酸※4を含む糖鎖が、がんの転移や炎症を促進することに着目し、その糖鎖を作る酵素の役割を調べました。この糖鎖はがん細胞や炎症細胞で作られ、血管の内側にある内皮細胞表面のセレクチン※5と特異的に結合します。セレクチンとの結合を使って、血液中のがん細胞は血管についたり離れたりしながら、血管内を転がるように移動し、組織の中に入り込み遠隔臓器で転移が成立したりすることが知られており、シアル酸含有糖鎖を作る酵素が、がんの転移やそれに伴う炎症を促進する要因となっています。

 一方、私たちの身体を構成する細胞の中には、エンドソーム※6とよばれる場所があり、小さな粒子(小胞)を介してタンパク質などのやりとりを行っており、この仕組みは細胞内輸送と呼ばれています。本研究では、エンドソームと細胞膜の間のタンパク質の細胞内輸送に大切なRab11※7に着目し、Rab11がシアル酸糖鎖を作る特定の酵素の輸送を調節し、酵素の働きを抑えることで、シアル酸の量を調節していることを発見しました。これまで、このシアル酸含有糖鎖やRab11ががん細胞の増殖や転移などに関わっていることが個別に報告されていましたが、今後は、Rab11を標的として、このシアル酸の発現を調節することで、がんの転移を抑える画期的な方法の開発に貢献できると考えられます。

 本研究は、大阪大学医学系研究科保健学専攻の大学院生 北野真郷研修生が大阪国際がんセンター研究所で主に行ったもので、大阪大学 三善英知教授、岐阜大学 木塚康彦准教授、広島大学 中の三弥子准教授らとの共同で行われました。また本論文はJournal of Biological Chemistryの編集部から優秀論文としてEditor’s Pickに選ばれる栄誉を得ました。

 

図1

 

※1 糖鎖:グルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。

※2 ゴルジ体:細胞の中の小器官の一つ。細胞の中で新たに作られたタンパク質に糖鎖の付加などを行う。その後、タンパク質は他の小器官や、細胞膜、細胞外などの目的の場所へ送り出される。

※3 糖転移酵素:糖鎖を作る酵素で、ヒトでは200種類近くがあり、主にゴルジ体に存在している。

※4 シアル酸:炭素 9 個からなる糖で、糖鎖の末端に存在する。ノイラミン酸とも呼ばれる。細胞と細胞の相互作用などに関わっている。化学的には、カルボン酸(酸性部分)を持ち、5位の官能基の構造の違いでN-アセチルシアル酸、N-グリコリルシアル酸などの種類がある。ヒトの体内ではN-アセチルシアル酸がほとんどである。

※5 セレクチン:シアリルルイスXなどの糖鎖と特異的に結合する細胞表面のタンパク質。P-セレクチン、L-セレクチン、 E-セレクチンと3種あり、それぞれ、血小板、白血球、血管内皮細胞などに多くみられ、糖鎖と結合する部位を持っている。炎症などで増え、また白血球やがん細胞が血管を破って組織に入るのを助ける。

※6 エンドソーム:細胞の中の小器官の一つ。細胞が外から取り込んださまざまな物質や、ゴルジ体を通過したあとのタンパク質などの振り分け、分解、再利用などを行う。初期エンドソーム、リサイクリングエンドソーム、後期エンドソームなどがある。

※7 Rab11:細胞内輸送に不可欠なRabファミリーと呼ばれる一群のタンパク質の一つ。Rabには70ほどの種類があり、細胞内のさまざまな小器官の間の小胞輸送をそれぞれのRabが特異的に調節している。Rab11は主にリサイクリングエンドソームに存在し、リサイクリングエンドソームとゴルジ体、細胞膜の間の輸送を調節する。

 

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