井上徳光・研究所腫瘍免疫学部門部長&井戸田篤・臨床検査医技師長&髭野明美・副臨床検査技師長インタビュー
医学研究「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」において、研究所腫瘍免疫学部門が、血液検査の中でも「免疫機能」の測定を担当します。
その検査に携わり「大がかりな血液検査で身が引き締まる思い」と語る、同部門の井上徳光・部長のインタビューをご紹介します。
研究所腫瘍免疫学部門部長
井上 徳光
血液検査は、どのようにして、何を調べるのでしょうか?
免疫細胞の種類や機能や白血球数など
「わろてまえ劇場」初回の1週間前と、同劇場2、4、6、8回目の計5回血液検査を行います。全5回の採血では、白血球数などの一般血液検査とストレスマーカーとして知られているコルチゾール量の測定を臨床検査室で行います。そして、1週間前、4、8回目の計3回の採血について、免疫検査を研究所腫瘍免疫部門で行います。同劇場終了後午後5時頃から、患者さん、看護師、劇場を鑑賞されない職員ら約130人の1人6mlの血液の検査をスタートします。生きた細胞を使って測定するため、その日のうちに検査に取りかかります。検査は大きく分けて2種類、「血液中の免疫細胞の種類と数」と「免疫細胞の刺激に対する活性化能」の検査を行います。これらの検査を通して、笑いの舞台を楽しむ機会によって、免疫機能に違いや変化があるかどうかを評価します。
「免疫機能」を調べる血液検査の今回の特徴を教えて下さい。
免疫を抑制する細胞群の測定
本来、がん細胞は、ウイルスなどと同様、異物として認識されるため、通常、がん細胞を攻撃、排除する働きのある免疫細胞が存在しています。その代表が「NK(ナチュラルキラー)細胞」です。しかし、がん細胞を攻撃する細胞が活性化しないようにブレーキをかけたり、免疫を抑制する細胞を増加させる事によって、がん細胞は患者さんの中で成長する事ができます。今回、4ヶ月という比較的長期間にわたって笑いの舞台を楽しむことによる免疫機能を評価している事、がんを攻撃する細胞だけでなく、免疫を抑制するいくつかの細胞群の検査をする事が特徴です。
血液中の免疫細胞をどのような流れで、分類するのでしょうか?
蛍光色素で印、レーザー光を当て分類
細胞の種類と数の測定は、赤澤隆・主任研究員が担当しています。いくつかの蛍光試薬で、血液細胞中の免疫細胞に印を付けます。細胞分析装置「フローサイトメーター」を使って、その印の違いによって免疫細胞を様々な種類の細胞に分類します。検査には、まる1日かかり、徹夜作業となります。その後、細胞分析装置からデータを取り出し、がんを攻撃する細胞や免疫を抑制する細胞の割合や数をコンピュータで解析します。
免疫細胞に刺激を与えて活性化するかどうかをどのような流れで、調べるのでしょうか?
分泌される生理活性物質の量を測定
私と研究助手が、担当しています。免疫細胞を活性化させるために、刺激物質で20時間、血液中の免疫細胞を細胞培養装置の中で刺激します。その後、刺激された血液の血漿を回収し、その中に含まれる生理活性物質の量を測定します。1回の血液検査で得られる約130人分の免疫細胞が分泌する生理活性物質を測定し終わるのに、約1か月かかります。
一般血液検査は臨床検査室で行っています。研究の準備段階から携わっていた臨床検査科の井戸田篤・臨床検査医技師長と、採血室の責任者でもある髭野明美・副臨床検査技師長のインタビューをご紹介します。
臨床検査医技師長
井戸田 篤
副臨床検査技師長
髭野 明美
医学研究「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」の発案段階で、聞かれた時はどのように感じましたか?
コスト面、検査結果など考えた
井戸田技師長:コスト面は大丈夫だろうか、検査結果を出すことができるだろうかと思いました。話し合いが重ねられ、血液検査をされることになり、参画の意思を固めました。
髭野・副技師長=最初に唾液検査での案を聞いた時には、無理だと思いました。また、的確な検査を実施するためには、検査を熟知している者が、研究に参加するべきだと感じました。
検査技師さんは、検査だけでなく、採血室でも活躍されているそうですね。
人員をやりくりして応援
井戸田技師長:外来採血室には、採血台が12台あり、看護師と検査技師で採血を行っていますが、通常、午後には採血患者さんが減るため、採血担当者も減らしています。今回の研究では、午後から一気に約130名の採血を行う必要があり、通常の採血担当者では人員が足りません。そのため、臨床検査室ではローテーションをやりくりし、検査技師を派遣。看護部では研究被験者である看護師の一部が協力し、対応しています。
約130人の血液検査で、苦心した点は何でしょうか?
患者さんの心身にご負担をおかけできない
髭野副技師長:患者さんの心身にご負担をおかけしないように、受付けから検査までのスムーズな流れを作った上で、研究データを確保することが必要です。特に、研究参加者は血液検査をする日としない日があり、採血が必要な日には、診察券を「再来機」に入れると、即座に採血の段取りが整うよう、研究の採血を通常の診療と同じ採血システムに乗せる事に苦心しました。
血液検査の内容を教えて下さい。
白血球数やコルチゾール量
井戸田技師長:採血室で採血された血液の白血球数、リンパ球数など約20項目は、臨床検査室で分析装置などを使って行います。さらに、ストレスマーカーのコルチゾール量については、外注の検査センターで測定します。
血液検査の流れを教えて下さい。
採血室から臨床検査室へ直結、即座に検査
髭野副技師長:2階の採血室で採血された検体は、専用のエレベーターに乗せられ、5階の臨床検査室に届きます。白血球の検査分は2ml、コルチゾールの検査分は5.5mlの血液が、それぞれの採取管に採血されています。それを即座に仕分けし、白血球の検査分は、血液の分析装置で測定、1件およそ30秒で結果が出力されます。
井戸田技師長:コルチゾールの検査分は、遠心分離器にかけて、血清成分だけにして試験管に収めて、外注の検査センターへ委ねます。また、NK細胞などの検査分は、大阪国際がんセンター内の研究所へ持って行きます。