研究所概要
所長からのごあいさつ
研究所の使命:社会貢献と基礎研究の重要性
本研究所の使命は、がんの克服を目指し、国際的なレベルの優れた基礎研究を行うとともに、臨床の方々と協力して独自の研究成果或いは大学や企業との共同研究の成果をがんの予防、診断、治療に資することにより、社会に貢献することと考えます。現在我々の研究所では、基礎研究に焦点を当て、がんの増殖制御、糖鎖生物学、細胞死、バイマーカーの研究、シングル解析、ライブイメージング、オルガノイドの研究、さらには免疫腫瘍学そして、ケミカルバイオロジーなどを用いた創薬などの研究をしています。いずれも独創的な発想に基づく質の高い研究を目指しています。
現在世界的な傾向として、基礎研究よりも実用的な応用研究が重視され、公的な研究資金の投入もその傾向にあります。がんの研究においても例外ではありません。すなわち、基礎研究よりはトランスレーショナルリサーチやプレシジョンメディシンと呼ばれる個別化医療などが重視されています。事実、がんを患っておられる患者さんにとって画期的な治療法が導入されることを願うのは当然のことです。チェックポイント療法といわれる真に画期的な治療法の開発がなされ、がん患者さんへの福音となっています。しかし、これも長年の基礎研究から生まれた成果です。がんの治療には他の技術も必要であり、軽視されがちな基礎研究の推進も大変重要です。昨年からこのような社会還元を具体的に目指したOICI実用化プロジェクトを発足させました。新たな診断法や治療法の開発には多くの年月を要しますので、我々の基礎研究が短期間で直接臨床に応用されることは困難であっても、一方で基礎研究者も自分たちの背後には、連日がんに悩み、苦しむ方々がおられることを常に意識することが重要だと考えています。
若手の人材育成について
現在、我が国では特に基礎科学研究のレベルの低下が危惧されています。海外留学をする若い研究者が減少し、任期制の職が増え、国際専門誌への掲載数も減少傾向にあります。また臨床研修制度の導入がひとつの契機になり、若い臨床医が基礎研究を経験する機会も減っています。私は臨床研修制度の中に一定期間基礎研究の経験をして、リサーチマインドを持った臨床医を育成することも大変重要と考えています。研究所でも基礎科学と臨床医学との交流を推進し、ひいては若手の人材育成につながるような環境を整備することが重要と考えています。
若手研究者や研修医へのグラントの創設や国際会議への参加の援助なども実現したいと考えています。将来的に若手人材がさらに新たな場所でもプロモーションできるような人材育成も考慮したいと思います。現在大阪大学医学系研究科連携大学院講座(腫瘍医学講座、令和6年度より分子腫瘍医学に変更)や大阪大学薬学研究科連携大学講座(がん病因病態学講座)に、中国から留学生が在籍しています。
共同研究の推進
大学や企業との共同研究を積極的に推進するとともに、とくに本センターには、病院部門に加えて、がん対策センター、次世代がん医療開発センター、臨床研究管理センターがあり、お互いの連携を密にすることが重要と考えています。さらに、研究所の構成メンバーである部長、プロジェクトリーダー、チームリーダー、研究員、実験補助、事務補助の方々、動物施設などの責任者の方々、さらに事務管理を行う事務の方々の全面的な協力が必要と感じています。それには、お互いの情報交換、忌憚のない意見交換が必要です。
国際交流の推進
これまでドイツ若手研究者、シンガポール理工科大学、タイ王国・プリンセスチュラボーン医科学大学 などとの交流セミナーなども行ってきました。また国外からはこれまで、EMBO fellowでスペインバルセロナから研究員が、日中笹川奨学金で中国から教授が来所され共同研究をおこないました。また今年度も中国福建省のがん病院医師が来所されます。今後とも継続的に交流を深める所存です。
研究の透明性とコンプライアンスについて
最近わが国でも時々問題になる研究倫理の問題や研究不正、公的資金の不正支出などの問題についても重要な課題です。遺伝子組み換えや動物の取り扱いなどにおける研究規範を遵守し、特に透明性の高い研究環境を維持し、倫理観を持った研究の推進については、日頃から研究倫理教育を徹底するのに加えて、研究者同士の十分な情報交換が必要です。このことが、研究の透明性を高め研究不正も防ぐ唯一の方策であろうかと思います。このような点も十分配慮したうえで研究所の運営努力をしたいと考えています。
今後とも皆様のご指導ご鞭撻をお願いして挨拶にかえさせていただきます。
大阪国際がんセンター研究所 所長 谷口直之
2024年4月1日