肺癌細胞から出る細胞外小胞を調べて肺癌の種類を診断できる可能性

Press Release

2022年4月20日

 

肺癌細胞から出る細胞外小胞を調べて

肺癌の種類を診断できる可能性

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 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター研究所・糖鎖オンコロジー部と鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器内科学分野の研究グループとの共同研究により、肺癌細胞から放出された袋状の粒子(細胞外小胞: EV*1)に含まれる糖鎖のかたちを調べることで、EVを放出した癌細胞の種類を診断できる可能性を見出し、その詳細が2022 年4月18日に国際学術誌 「Journal of Biological Chemistry」に掲載されました。本知見は、現在世界中で行われているEV研究の更なる発展に寄与するとともに、肺癌治療薬の選択などの臨床応用に有益であると考えられます。
*1: Extracellular vesicles

概要

 EVは、細胞が放出するナノメートル(10億分の1メートル)サイズの袋状の物質です。その役割について徐々に解明が進み、最近では癌細胞においては増殖や転移に関与すると考えられています。EVにはさまざまなタンパク質が含まれていますが、その種類や量は肺癌患者では異なることが知られています。しかし、この違いは癌細胞の種類や性質を反映しておらず、EVがどのような細胞から放出されたのかは分かりませんでした。
 “細胞の顔”とも例えられる糖鎖は、細胞の種類によってそのかたちが異なることが古くから知られています。この糖鎖のかたちは、ほとんどそのままEVにコピーされることを私たちは報告してきました。このような背景から、共同研究チームはEVの糖鎖を調べることで、そのEVを分泌した細胞を特定できるのではないかと考えました。実際に、小細胞肺癌と非小細胞肺癌から放出されたEVには、それぞれの癌細胞の性質を反映した異なる糖鎖が存在することが明らかになりました。
 肺癌は大きく、小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分けられ、肺癌の性格や治療方法が全く異なります。現在の医療では、患者さんの身体から細胞を取って顕微鏡で見ないとどちらか分かりませんが、細胞を取るには出血などの危険性を伴います。今回、EVを調べるだけでどちらのタイプか簡単に分かる研究成果が得られましたので、今後、患者さんの体液を用いた危険性の少ない診断方法への道が開かれました。さらに詳しく癌細胞の種類や性質を調べられる可能性があり、EVを用いた検査、治療の選択や新規治療の研究開発などに寄与することが期待されます。

 細胞外小胞(EV)は細胞から放出される大きさが50〜150nmと非常に小さな袋状の物質です。癌研究においては、癌の転移などに関わっていることが解明され、研究対象として注目されています。EVはその小さな袋の中に細胞のタンパク質やDNA、メッセンジャーRNA、マイクロRNAといった核酸を封入し、それらを他の細胞へ受け渡すことで情報を伝えているとされています(図1、2)。

 共同研究チームは、病態が異なる2種類の肺癌細胞から放出されるEVには、それぞれの細胞の特徴を反映する分子を有しているのではとの仮説を立てました。タンパク質に付加されたN結合型糖鎖は細胞の特徴を反映することがよく知られていますので、それらについて解析しました。

 N結合型糖鎖は細胞内の小胞体で合成されたタンパク質に付加されます(図3)。この糖鎖には、合成されたタンパク質を安定化させるという品質管理の役割があります。

 小胞体で糖鎖を付加されたタンパク質は次にゴルジ体へ輸送されます。ゴルジ体では糖鎖構造が大きく変化しますが(図4)、その変化は細胞の種類ごとに異なります。このことから、N結合型糖鎖は細胞の特徴を反映する“顔”のような働きもあると言えます。

 神経内分泌癌の性質をもつ小細胞肺癌と肺上皮に由来する非小細胞肺癌の細胞からEVを集め、そこに含まれるN結合型糖鎖を解析した結果、小細胞肺癌のEVには脳に関連する糖鎖が確認されました。一方、非小細胞肺癌は肺上皮に特徴的な糖鎖を持つことが確認されました(図5)。

 糖鎖はタンパク質に結合した状態で存在しています。まず2種類の肺癌細胞のEVを用いて特徴的な糖鎖を持つタンパク質について詳しく調べてみると、いくつかのインテグリンと呼ばれるタンパク質が見つかりました。インテグリンは、α鎖、β鎖と2つの異なる構造からなるタンパク質(図6)で、主に細胞と細胞外基質との接着に関与しています。α鎖、β鎖共に複数の種類を有しており(α鎖: 18種類、β鎖: 8種類)、その組み合わせによって発現している細胞や結合する対象の分子が異なります。
 次に、インテグリンについて解析したところ、非小細胞肺癌では細胞、EVの双方で上皮に特徴的なインテグリンα6β4が認められました。一方、小細胞肺癌では見られませんでした。よって、肺癌細胞においてインテグリンα6β4は非小細胞肺癌で特異的であることが分かりました。

 以上のことから、小細胞肺癌と非小細胞肺癌の細胞から分泌されるEVには、それぞれの起源の癌細胞を示すN結合型糖鎖が存在することが分かりました。本研究の成果は、EVのN結合型糖鎖を解析することでその細胞の由来を同定できる可能性があることを示唆しています

論文情報

<タイトル>
Identification of distinct N-glycosylation patterns on extracellular vesicles from small-cell and non-small-cell lung cancer cells

<著者名>
Kiyotaka Kondo, Yoichiro Harada, Miyako Nakano, Takehiro Suzuki, Tomoko Fukushige,
Ken Hanzawa, Hirokazu Yagi, Koichi Takagi, Keiko Mizuno, Yasuhide Miyamoto,
Naoyuki Taniguchi, Koichi Kato, Takuro Kanekura, Naoshi Dohmae, Kentaro Machida,
Ikuro Maruyama, Hiromasa Inoue

<雑誌>
The Journal of Biological Chemistry

<DOI>
https://doi.org/10.1016/j.jbc.2022.101950

共同研究グループ(研究当時)

大阪国際がんセンター
研究所 糖鎖オンコロジー部
チームリーダー  原田 陽一郎
研究所長兼部長  谷口 直之
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
呼吸器内科学分野
大学院生     近藤 清貴特任助教     高木 弘一
講師       町田 健太朗
特任准教授    水野 圭子
教授       井上 博雅
広島大学大学院統合生命科学研究科
生物工学プログラム
准教授      中ノ 三弥子
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
システム血栓制御学講座
特任教授     丸山 征郎
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野
技能補佐員    福重 智子
教授        金蔵 拓郎
理化学研究所
環境資源科学研究センター 生命分子解析ユニット
専任技師     鈴木 健裕
ユニットリーダー 堂前 直
大阪国際がんセンター
研究所 分子生物学部
研究員      半澤 健
部長       宮本 泰豪
名古屋市立大学大学院薬学研究科
生命分子構造学分野
准教授      矢木 宏和
自然科学研究機構 生命創成探究センター / 分子科学研究所
名古屋市立大学大学院薬学研究科
教授       加藤 晃一
【お問い合わせ先】

<研究内容に関すること>
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器内科学分野
  教授  井上 博雅
  TEL 099-275-6481
<報道・広報に関する窓口>
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  事務局 総務・広報グループ
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鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
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