胃粘膜下腫瘍に対して内視鏡で病変を切除し、痕を縫合する「内視鏡的胃局所切除術」を先進医療として導入

Press Release

2020年10月21日

 

胃粘膜下腫瘍に対して内視鏡で病変を切除し、

痕を縫合する「内視鏡的胃局所切除術」を先進医療として導入

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 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター(以下、当センター)の消化管内科は、胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡的胃局所切除術(以下、内視鏡的切除術)を、2020年10月1日に先進医療として国内で初めて臨床に導入しました。

 胃にできる腫瘍にはいろいろなものがあります。最もよく見られる胃癌は、胃の一番内側の粘膜にできる病変ですが、その次に多い病変として胃粘膜下腫瘍というものがあります。これは名前の通り胃の粘膜の下にできる腫瘍で、筋肉、神経、脂肪などさまざまな組織から発生します【補足資料 図1右上段】。胃粘膜下腫瘍にはおとなしい良性のものから、放っておくと命に関わる悪性のものまで、さまざまなものが含まれます。その中で最も多い消化管間葉系腫瘍(GIST※1)は放っておくと増大し、転移を起こして命に影響することがあるため、多くの場合は切り取る必要があります。その他の胃粘膜下腫瘍も、良性か悪性かわからないもの、また、良性でも大きくなってくるものは取ってしまう必要があります。現在、胃粘膜下腫瘍の切除はお腹を切る手術が基本ですが、当センターではお腹を切ることなく、口から入れた内視鏡で病変を取り、その痕を縫い合わせるという患者さんに苦痛や負担の少ない(低侵襲な)内視鏡的切除術を、国内で初めて先進医療として臨床に導入しました※2

 現在国内では、癌細胞が粘膜だけに存在する早期胃癌に対してはお腹を切る手術でなく、口から内視鏡を入れて切り取る方法が多数行われています。早期胃癌は粘膜を取るだけで済むので、胃に穴が開くことなく切り取れますが、胃粘膜下腫瘍は粘膜の奥に病変があるので、内視鏡で内側から切り取ろうとすると穴が開き、胃の中身が外に広がって腹膜炎を起こすため難しいと考えられていました【補足資料 図1右下段】。

 そのため胃粘膜下腫瘍に対しては、お腹の皮膚を切って中に腹腔鏡という管を挿入し、胃の外側から病変を切り取り、その痕を縫い合せる手術(腹腔鏡切除術)が行われています【補足資料 図2左】。しかし、この方法ではお腹に傷が残ってしまい、病変周囲の胃を多く切るだけではなく、胃の外側に組織が付着している場合はそれも切る必要があるため、術後に胃が変形したり動きが悪くなったりするという問題点がありました。また、胃の噴門(入口)や幽門(出口)の近くに病変があった場合には、噴門や幽門を含めて大きく切る必要があるため、手術後の食生活に大きな影響を及ぼします。

 このたび、当センターが導入する内視鏡的切除術は、口から内視鏡を入れて胃の内側から病変を切り取り、その痕を縫い合わせるものです【補足資料 図2右】。この方法は、切り取る部分を最小限にとどめることができ、胃の外側の組織を傷つけず、何よりもお腹に傷が残ることなく胃粘膜下腫瘍を取ることができるので、患者さんに苦痛や負担の少ない治療法です。これは、低侵襲治療である内視鏡による消化管腫瘍の切除術をさらに高度な次元に押し進める方法と言うことができます。

 

※1 胃や腸の消化管壁の粘膜下にある未熟な間葉系細胞に由来する「肉腫」の一種であり、「がん」とは異なる

※2 組織検査でGISTと診断、または、超音波内視鏡・CT検査で辺縁不整や内部不均一、増大傾向を認める病変で、1〜3cmの胃の内側に発育する、潰瘍のない胃粘膜下腫瘍に限る

 

【補足資料】

治療は入院し、全身麻酔で行います。具体的な方法を写真で説明します。
病変部(図3、①)の粘膜を内視鏡で切開し(図3、②)、病変と固有筋層との付着部を露出させます。病変と固有筋層との間を、内視鏡用電気メスで切開し、腹膜組織を剥がして(図3、③)、病変を切除します(図3、④)。切除した後の穿孔部は(図3、⑤)、留置スネア(円形状のワイヤ)と内視鏡用クリップで縫縮して(図3、⑥)、処置を終了します。切除した病変は、回収ネットを用いて口から取り出します。

 

図1

図1

 

図2

図2

 

図3

図3

 

【お問い合わせ先】

TEL 06-6945-1181(内線5104)

事務局 総務・広報グループ

受付時間:平日9:00~17:30

 

<内視鏡的胃局所切除術の動画はこちら>

 

胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡的胃局所切除術

胃粘膜下腫瘍の切除は外科手術が標準ですが、当センターでは3 cmまでの病変については、内視鏡のみで腫瘍を切除し胃壁を縫縮する低侵襲手術を先進医療として行っています。治療は全身麻酔で行います。
体中部小弯前壁の粘膜下腫瘍です。治療前のボーリング生検後のクリップが付いています。ITナイフ2を用いて、腫瘍の筋層付着部を露出した後に、腫瘍辺縁に沿って固有筋層を切開します。一方向の筋層切開が終わったら、糸付きクリップを付けて腫瘍を口側に牽引し、腹膜側の組織を剥離していきます。最後、筋層付着部をITナイフ2で切離します。欠損した胃壁は留置スネアとクリップを用いて縫縮します。切除した腫瘍は回収ネットで口から回収します。

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