希少がん「成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)」のデータベースを拡充しATLの早期診断や診断法の開発を企業6社と共同研究にて推進

Press Release

2021年8月31日

 

希少がん「成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)」のデータベースを拡充し

ATLの早期診断や診断法の開発を企業6社と共同研究にて推進

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大阪国際がんセンター(以下、当センター)は、希少疾患の一つである成人T細胞白血病リンパ腫※1(以下、ATL)のデータベースを拡充、整備することにより、早期診断や新たな診断指標の探索、それを活用した診断法の開発を推進することを主な目的として、当センター内と外部関連機関による共同研究を2021年5月19日※2より開始いたしました。
 
ATLは難治性・希少がんの一つであり、その治療成績は極めて不良です。また、ATLの患者数は、大阪府下において増加傾向にあり、決して看過できない状態にあります(図1)。当センターの血液内科では、このATLの診療に取り組んでいます。ATLには、早期の「くすぶり型」「慢性型」と、症状が進行して予後の厳しい「急性型」「リンパ腫型」の4病型があり、早期の「くすぶり型」「慢性型」の5年生存率は4~5割に留まり、さらに進行した「急性型」「リンパ腫型」では1割台と著しく低い状況です(図2)。早期の「くすぶり型」「慢性型」では有効な治療法が確立されておらず、治療をせずに経過観察する方法が推奨されており、症状が進行した「急性型」「リンパ腫型」では、高度な「強化化学療法や同種造血幹細胞移植※3」などの治療法を選択することが多いですが、患者さんにとって身体的にも経済的にも負担が大きいに割には、必ずしも治療効果が高いとは言えません。
 
また、前述の4病型の診断では、明らかに進行して重篤な状態となった「急性型」のATLを除いては異常リンパ球数のわずかな差を評価する必要があるため、診断者の経験や蓄積された技術に依存せざるを得ません。したがって、ATL患者を早期の段階で捕捉/病型診断することは難しく、より重篤な「急性型」「リンパ腫型」に進行してから治療介入をすることが多いため、ここ数十年間、治療成績を上げることができていません。
 
これを改善するため、当センターでは、ATLデータベースを活用した研究を進め、4病型の診断において、早期の「くすぶり型」「慢性型」の患者を的確に捕捉/病型診断することを可能にしたいと考えています。この共同研究では、既存の電子カルテにある登録情報に人工知能で画像診断をするための支援データとなる異常リンパ球の画像を新たに格納し、さらに機能性核酸バイオマーカー情報などを追加します。この拡充、整備されたデータベースを用いることにより多面的な解析が可能となり、ATL患者を早期の段階で捕捉/病型診断できるようになるのはもちろんのこと、新たな診断指標の探索やそれを活用した診断法の開発、さらには、得られた情報から治療標的を推定することにより、ATLの早期診断薬や治療薬の開発が期待できます。
 
この共同研究は、厚生労働省の「令和3年度クリニカル・イノベーション・ネットワーク(CIN)推進支援事業※4 (以下、CIN事業)」の補助を受け、企業6社(参画企業=セラビジョン・ジャパン株式会社、積水メディカル株式会社、株式会社GreenBioanalytics、株式会社アウトソーシングテクノロジー、BLUE TAG株式会社、MiRXES Japan株式会社)と共同で行います。なお、CIN事業で改修したATLデータベースは、本事業終了から2年経過後には参画した企業6社以外でも活用できるようになります。
 
当センターは今後、さらなる医療機関の参加と企業によるATLデータベースの利活用、共同研究を促し、ATLおよび関連疾患の早期診断や、治療技術の開発のための研究を進めてまいります。また、ATL治療成績向上を目指す大阪モデルとして、早期リスク診断法と予防法などの保健行政への提言を目指します。そして、地域医療機関や行政と連携することでATLの啓発を高め、ATLの早期診断と早期治療を実践し、ATL根絶を目指します。
 

【お問い合わせ先】

TEL 06-6945-1181(内線5101/5104)

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター

事務局 総務・広報グループ

受付時間:平日9:00~17:30

 

【注釈】
※1 血液を流れている白血球にできるがん(=白血病)の一種で、白血球の一つであるTリンパ球に起こるがんのこと。
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)が原因で発現し、白血病の中でも治療成績が不良の難治がんの一つ。

 
※2 厚生労働省から通知のあった採択・事業開始日。
 
※3 血縁者あるいは非血縁者で、HLA(ヒト白血球抗原または組織適合抗原)と呼ばれる白血球の血液型が一致、あるいは類似している健常人、またはHLAの条件が合ったさい帯血から造血幹細胞の提供を受けて行う移植。
 
※4 疾患登録システム(患者データベース)を臨床開発に利活用することで、日本国内における医薬品・医療機器等の臨床開発を活性化させることを目指し、その環境整備を産官学で行う厚生労働省が補助するプロジェクト。

 

図1 大阪府下のATL登録実数と罹患者増減傾向

 

図2 病型と生存率

 

【参画企業6社について】

 
セラビジョン・ジャパン株式会社:末梢血自動血液細胞分類装置によるATL細胞を自動解析する人工知能の開発とATL細胞を含めたデジタル細胞画像の出力を行い、早期に正確なATL診断支援することを目指す。
 
積水メディカル株式会社:特殊検査事業を行うSMCLセンターを中心に、ATLの原因ウイルスであるHTLV1 proviral loadやその他ウイルス検査測定を実施することで患者データベース充実に貢献し、ATLに関連するウイルスの定量化など客観的な指標の充実を目指す。
 
株式会社GreenBioanalytics:患者データベース充実のためのデータマネジメントと人工知能による患者層別化やバイオマーカーの探索を行い、ATLにおける治療戦略の個別化を目指す。
 
株式会社アウトソーシングテクノロジー:ITインフラの基盤を構築し、患者データベース情報を正確にかつ簡便にIT技術を用いた管理することを目指す。
 
BLUE TAG株式会社:デジタル細胞中のATL疑い細胞を画像から精度良く検出する人工知能開発に向けての、教師画像の整理・分類を行い、ATLの画像診断支援を自動で行えるシステム構築を目指す。
 
MiRXES Japan株式会社:血液中のmicroRNAを高感度で検出できる特許技術を利用して、ATLの早期リスク診断あるいは移植後の再発モニタリングに関するデータ収集を行い、新たなマーカーを取り入れた予後予測モデルの構築を目指す。

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