ひとつの小さな傷から行う胃がんの「単孔式腹腔鏡下胃切除術」が患者さんに負担の少ない手術であることを証明

Press Release

2021年10月28日

 

ひとつの小さな傷から行う胃がんの「単孔式腹腔鏡下胃切除術」が

患者さんに負担の少ない手術であることを証明

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大阪国際がんセンターの消化器外科 大森 健 胃外科長は、胃がんをひとつの小さな傷から手術する「単孔式腹腔鏡下胃切除術」にてわが国で最も多い500例を超える手術を行い、これまでの術式よりも患者さんの負担が少ないことを証明し、国際学会雑誌※1に掲載しました。
 
胃がんの手術はかつて皮膚をメスで切り、お腹を大きくあけて直接手で触って手術を行ってきました。麻酔により手術中の痛みはありませんが、麻酔から覚めると切った箇所がしばらく痛み、15cmくらいの傷が一生残ります。やがて皮膚を大きく切らずに小さな穴を数カ所(5~6穴)あけて、そこから管(手術器具)を挿入して手術を行う腹腔鏡手術が開発されました。この術式であれば数センチの傷が数カ所残るだけで手術後の痛みもかなり軽減されるので、患者さんへの負担が少なくなります。そして、これをさらに進めて、数カ所の穴をあけずに1カ所だけの穴から手術を行う「単孔式腹腔鏡下胃切除術」が優れた術式であることを示したのが、今回の研究の成果です。
 
当センターでは胃がんに対して年間250~300例の胃切除術を行っていますが、できるだけ小さな穴をあけて行う腹腔鏡手術やその応用編であるロボット支援手術を行っており、従来のようなお腹を切ってあける手術は1割以下になっています。また、従来の腹腔鏡手術では組織を取り出すための2.5~3㎝の傷と1~2cmの数カ所の傷が残りましたが、「単孔式腹腔鏡下胃切除術」では、凹んで隠れやすいおへそのところに2.5~3㎝の穴を1カ所しかあけないので、痛みが少なく美容上に優れています。大森医師はこの「単孔式腹腔鏡下胃切除術」を2009年より世界に先駆けて行い※2、これまでにわが国で最も多い500例を超える手術を行ってきました。
 
このたび当センターでは、Stage Iの胃がんの患者を対象とした「前向き研究」によるランダム化比較試験※3を用い、「単孔式腹腔鏡下胃切除術」とこれまでのように5~6個の穴をあけて行う腹腔鏡下胃切除術を比較しました。その結果、ひとつの穴をあける手術の方が手術後の痛みや合併症(手術によるトラブル)が少なく、より低侵襲(患者への負担が少ない)であることが証明され、その成果が2021年8月に国際学会雑誌であるSurgical Endoscopyに掲載されました。これまで「後ろ向き研究」(条件が揃わず結果が不十分とされる、過去の症例を振り返って分析した研究)※4でしか報告されていなかった「単孔式腹腔鏡下胃切除術」の有用性を、「前向き研究」で証明した世界で初めての論文※5であり、安静時や歩行などの運動時に腹部のどのあたりに痛みがあるかなど、さまざまな因子を調べたことが高く評価されました。
 
「単孔式腹腔鏡下手術」は、主に胆石や虫垂炎等のがん以外の病気に行われる術式であり、胃がんに対してはまだ実施報告が少なく、どの医療機関でもできるわけではありません。その理由は、ひとつの穴から手術をすると、手元の手術道具同士がぶつかり合うことで動作範囲が制限されるため、高度な技術が要求されるからです。当センターでは、手術の場面ごとに腹腔鏡と手術道具の配置を細やかに設定し、道具同士がぶつからない独自の方法を確立し、海外書籍に示しています※6
 
また、これまでに500例を超える「単孔式腹腔鏡下胃切除手術」の実績がある医師を有する当センターにおいては、患者さんに安心して手術を受けていただける術式であると考えます。また、最近では2018年から日常診療として使えるようになったロボット支援手術においても、この術式を応用した「単孔式ロボット胃切除術」を行っています。ロボット支援手術の利点である先端が曲がるピンセットやハサミを用いると、より簡便に行うことができると考えています。
 
当センターでは患者さんのご要望に合わせて術式を選択することができるので、お気軽にご相談いただければ幸いです。
 
【お問い合わせ先】

TEL 06-6945-1181(内線5101/5105)

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター

事務局 総務・広報グループ

受付時間:平日9:00~17:30

 

【注釈】
※1  Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons [SAGES]とEuropean Association for Endoscopic
Surgery [EAES]との提携により1987年から発行され、高い評価を得ているジャーナル(インパクトファクター4.585)

 
※2 Surgical Endoscopy 2011にて掲載(Omori T, Oyama T, Akamatsu H, Tori M, Ueshima S, Nishida T. Transumbilical
single-incision laparoscopic distal gastrectomy for early gastric cancer. Surgical Endosccopy. 25:2400-2404.

 
※3 (RCT:randomized controlled trial)治療方法を2つのグループにランダムに分けて、その効果を比べる方法で、2つのグループに分けるときなどに評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法
 
※4 「Annal of Surgical Oncology 2016, Journal of Gastrointestinal Surgery 2019」に掲載された後ろ向き研究論文(Omori T, Fujiwara Y, Moon J, Sugimura K, Miyata H, Masuzawa T, Kishi K, Miyoshi N, Tomokuni A, Akita H, Takahashi
H, Kobayashi S, Yasui M, Ohue M, Yano M, Sakon M. Comparison of Single-incision and Conventional Multiport
Laparoscopic Distal Gastrectomy with D2 Lymph Node Dissection for Gastric Cancer: A Propensity Score–Matched
Analysis. Ann Surg Oncol 2016; 23:817-824.
Omori T, Fujiwara Y, Yamamoto K, Yanagimoto V, Sugimura K, Masuzawa T, Kishi K, Takahashi H, Yasui M, Miyata
H, Ohue M, Yano M, and Sakon M. The Safety and Feasibility of Single-port Laparoscopic Gastrectomy for Advanced
Gastric Cancer. J Gastrointest Surg. 2019, Jul, 23(7), 1329-1339)

 
※5 (Omori T, Yamamoto K, Hara H, Shinno N, Yamamoto M, Sugimura K, Wada H, Takahashi H, Yasui M, Miyata H, Ohue
M, Yano M, Sakon M.A randomized controlled trial of single-port versus multi-port laparoscopic distal gastrectomy for gastric cancer. Surg Endosc 2021; 35:4485-4493)

 
※6 海外書籍「Springer 2014」に掲載(Omori T, Nishida T. Reduced port laparoscopic surgery;Distal gastrectomy. Springer Japan. 2014: 183-195)

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