活性酸素の消去が糖鎖によって制御されるメカニズムを発見~新たな肺がん治療の開発へ希望~

Press Release

2023年2月16日

 

活性酸素の消去が糖鎖によって制御されるメカニズムを発見

~新たな肺がん治療の開発へ希望~

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 大阪国際がんセンター(以下、当センター)の谷口直之研究グループ(糖鎖オンコロジー部)はこの度、日本医科大学、大阪大学、広島大学、岐阜大学、兵庫医科大学の研究グループと共同で、活性酸素を消去するタンパク質(スーパーオキシドジスムターゼ)のひとつであるSOD3がコアフコースという糖鎖によって制御されることを明らかにしました。その研究結果が、先日、国際的な研究学術誌 Antioxidants & Redox Signalingに掲載されました※1。なお、この研究は当センター糖鎖オンコロジー部の大川祐樹研究員および当時研修生だった北野真郷氏が中心になって行われました。

 私たちは酸素を吸って生命を維持しており、酸素はとても大事ですが、生体の中では不安定で、ほかの物質と反応しやすい活性酸素になります(産生系)。また一方で、生体の中には産生された活性酸素を消去する仕組みもあります(消去系)。活性酸素は産生系と消去系がバランスをとって、増え過ぎないように調節されていますが、そのバランスが崩れ活性酸素が増えてしまうと、身体の細胞が傷つき、がんや様々な病気につながることがわかっています。ヒトはそれらの活性酸素を消去するために体内にスーパーオキシドジスムターゼというタンパク質を持っています。SOD1、SOD2とSOD3の3種類が存在しており、中でもSOD3にはヘパリン結合部位があり、それを介して血管内皮細胞などの細胞表面に結合する一方で、血液中にも分泌されます。SOD3には他のSODにはない糖鎖を持っていますがその働きは今までよくわかっていませんでした。糖鎖はグルコースやマンノース、フコースなどの糖が鎖状に繋がったもので、タンパク質に付加することで、そのタンパク質の機能を制御します。

 今回、研究グループはコアフコースという糖鎖がSOD3のもつ活性酸素を消去する機能に必要であることを明らかにしました。SOD3のコアフコースの機能を明らかにするため、コアフコースを作るFUT8※2という酵素を実験的に欠失させた肺癌細胞を解析しました。この細胞では、FUT8を欠失していない細胞に比べて、SOD3の発現分泌が抑制されており、加えてSOD3の活性酸素の消去機能が著しく低下していました。また、SOD3の立体構造をコンピュータシミュレーションした結果、コアフコースがSOD3の活性酸素の消去に働く部位の立体構造を変化させ、その機能を制御する可能性を明らかにしました。さらに、SOD3が肺癌細胞の増殖を抑え、かつ、肺がん患者の血液中ではコアフコースが付加したSOD3が増加することなどから、コアフコースによるSOD3の機能制御が、肺がんの病状によく関与することを明らかにしました。研究グループは今後、これら結果を新しい肺がん治療法の開発に繋げるため、更に研究を継続していきます。

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【注釈】

※1 Mary Ann Liebert, Inc,(アメリカ合衆国)より発行される抗酸化物質や酸化還元シグナルの研究分野をカバーする査読つきの科学雑誌。doi:10.1089/ars.2022.0010.

※2 コアフコース糖鎖を合成する酵素であるα1,6 フコース転移酵素

 

【図1】研究結果の概要

SOD3は活性酸素を消去する酵素であり、機能するにはコアフコースが必要であることを明らかにした。SOD3が肺がんなどのがん細胞の増殖を抑えることがわかった。

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