悪性リンパ腫・多発性骨髄腫

悪性リンパ腫の解説

1. 悪性リンパ腫とは

リンパ球は体内に侵入してきた異物を除去する(=免疫)役割を担う細胞です。骨の中にある「骨髄」という組織でつくられ、リンパ管や血管を通って全身に分布し私たちの体を守ってくれます。このリンパ球が “がん化” して無制限に増殖し、かたまりを作ってくる病気です。がん化したリンパ球は、リンパ球の主な活躍の場であるリンパ節・リンパ組織において異常増殖を来すため、リンパ節の多く集まる首、脇の下、足の付け根などのリンパ節の腫れといった症状が出てきます。またリンパ節の腫れに、風邪に似た症状(原因不明の発熱、体重減少(半年で10%以上の低下)、寝汗など)を伴うこともあります。

2. 診断のための検査について

悪性リンパ腫診断のためには、種類を調べるためのもの、と病変部位を調べるためのものの2つに分かれます。

1)種類を調べる

悪性リンパ腫には100種類以上の種類(組織型)があります。これらは主に病理検査(細胞を顕微鏡で見る検査)にて行います。腫れているリンパ節、組織の一部を手術で採取し標本にして顕微鏡で観察します。より詳しい情報を得るために免疫検査、遺伝子検査を行うこともあります。

2)病変部位を調べる

リンパ腫の全身的な広がりや体の外からでは分からないような内部の病変の有無を確認するために行います。

  • ・PET-CT:体に様々な角度からX線をあて、コンピューターで断面画像を描きます。リンパ腫の病変がある部位をより分かりやすくするための特殊な薬剤を使って画像の撮影を行います。
  • ・MRI:磁場と電波で体内を撮影します。
  • ・超音波検査:超音波をあてて体内にあるかたまりを描出します。
  • ・骨髄検査:骨髄に病気が広がっていないか確認します。

上記検査結果をもとに、次のように病期診断を行います。あくまで病変範囲の評価であり、病期によって悪性度が決まるわけではありません。

3. 治療について

リンパ腫のタイプ(悪性度、組織型)、リンパ腫の広がり(病期)や症状の有無、患者様状態(体力、既往症、治療中の病気など)から治療方針を決定します。

治療無効例や再発例では、多剤併用化学療法、放射線療法に加えて、造血幹細胞移植やCAR-T療法などの免疫療法が治療選択肢となる場合もあります。

多発性骨髄腫の解説

1. 多発性骨髄腫とは

私たちの身体の中には細菌やウイルスから身を守る「免疫」という仕組みがあります。この免疫の重要な役割を担っているのが「形質(けいしつ)細胞」という血液細胞です。形質細胞は、普段は骨の中心部にある「骨髄(こつずい)」という場所で「抗体」を作って身体を守ってくれています。多発性骨髄腫はこの形質細胞ががん化して「骨髄腫細胞」となり、骨髄の中で無秩序に増え続けてしまう病気です。また数は少ないですが、骨髄の外に髄外腫瘤と呼ばれるできものを作ることもあります。

増殖した骨髄腫細胞は、主に2つの悪さをします。

  • ・異常なたんぱく質(Mタンパク)を大量に作る:役に立たない異常な抗体(Mタンパク)を大量に作り出して、血液をドロドロにしたり、腎臓に負担を掛けたりします。
  • ・骨を壊す:骨を溶かす細胞を活性化させる物質を出すため、骨がもろくなり痛みや骨折の原因となります。

2. 症状について

多発性骨髄腫の代表的な症状は、その頭文字をとって「CRAB」と呼ばれています。

  1. C(Calcium), 高カルシウム血症:骨が壊されることで、骨に含まれるカルシウムが血液中に溶け出し、血液中のカルシウム濃度が高くなります。主な症状としては、喉の渇き・吐き気・食欲不振・たくさんの尿・便秘・意識がぼんやりする、などがあります。
  2. R(Renal), 腎機能障害:異常なタンパク質(Mタンパク)が腎臓にたまり、フィルター機能を詰まらせることで腎臓の働きが悪くなります。主な症状としては、尿の量が減る・むくみ・だるさ・貧血、などがあります。
  3. A(Anemia), 貧血:骨髄の中で骨髄腫細胞が増えすぎると、正常な血液(赤血球・白血球・血小板)を作るスペースがなくなってしまいます。特に赤血球が減ることで貧血になります。主な症状としては、動悸・息切れ・めまい・ふらつき・疲れやすい、などがあります。
  4. B(Bone), 骨病変:骨髄腫細胞が骨を溶かすため、骨がもろくなってしまいます。主な症状としては、背中や腰などの痛み・ささいなことで起こる骨折、などがあります。

ただし他にも様々な症状をきたします。例えば、感染症にかかりやすくなったり、出血しやすくなったりするのも多発性骨髄腫で見られる症状です。

3. 多発性骨髄腫の診断のための検査について

多発性骨髄腫の診断は、いくつかの検査を組み合わせて行われます。

・血液検査・尿検査
主に腕からの採血と採尿を行います。血液や尿中に含まれるMタンパクの有無や量を調べるのが目的です。他にはCRAB症状に関わるものとして貧血や腎機能、カルシウム値なども調べることが出来ます。
・骨髄検査
主に腰の骨盤の骨(腸骨)に局所麻酔をし、専用の針を刺して骨髄液を採取します。採取した骨髄液を使用して、骨髄の中に骨髄腫細胞がどの程度存在するかを顕微鏡で調べます。多発性骨髄腫の確定診断のために最も重要な検査となります。
・画像検査(レントゲン・CT・MRI・PET-CT)
骨の状態や、病気が体のどこまで広がっているかを確認します。
これらの検査結果を総合的に判断して、病気の進行度(病期)を決定し、治療方針を立てていきます。

4. 治療法について

多発性骨髄腫の治療はここ十数年で大きく進歩し、治療成績は大きく向上していますがそれでも多発性骨髄腫を完全に「治癒」させることは難しいとされています。しかし、薬物療法などを上手に組み合わせることで、骨髄腫細胞を減らし、症状のない状態(寛解:かんかい)を出来るだけ長く維持し、病気と上手に付き合いながら、自分らしい生活を送ることが治療の大きな目標となります。

  1. 1 薬物療法:現在の治療の中心です。作用の異なるいくつかの薬を組み合わせる「多剤併用療法」が基本となります。
    • ・分子標的薬:がん細胞に特有の分子を狙い撃ちして、増殖を抑える薬です。骨髄腫細胞が生きていくために必要なプロテアソームという酵素の働きを妨げる「プロテアソーム阻害薬」と、骨髄腫細胞が増えるのを抑えるとともに、患者さん自身の免疫細胞ががんを攻撃する力を高めてくれる「免疫調節薬(IMiDs)」が主になります。
    • ・抗体療法:骨髄腫細胞の表面にある特定の目印(抗原)にくっついて、直接攻撃したり、免疫細胞による攻撃の目印となったりする薬です。
    • ・ステロイド:骨髄腫細胞を減少させる効果があり、多くの治療で他の薬と組み合わせて使われます。
    • ・従来の化学療法(抗癌剤):細胞が増殖する働きを妨げることで、がん細胞を攻撃する薬です。
  2. 2 自家末梢血幹細胞移植:65-70歳くらいまでの、比較的お元気な患者さんが対象となる強力な治療法です。
    • ・まず薬物療法などで骨髄腫細胞を出来るだけ減らします。
    • ・薬を使って、御自身の血液の元となる細胞(造血幹細胞)を血液中に増やし、それを採取して凍結保存します。
    • ・大量の抗がん剤治療(大量化学療法)を行い、身体の中に残っている骨髄腫細胞を徹底的にたたきます。
    • ・最後に保存しておいた御自身の造血幹細胞を点滴で体内に戻し、血液を作る機能を回復させます。
  3. 3 放射線療法:骨の痛みが強い場合や、骨髄腫のかたまりが神経を圧迫している場合に、その部分に放射線をあてて、骨髄腫細胞を減らし症状を和らげる目的で行います。
  4. 4 支持療法:病気そのものによる症状や、治療に伴う副作用を和らげるための大切な治療です。
    • ・骨を強くする薬(ビスホスホネート製剤など):骨病変の進行を抑え、骨折を防ぎます。
    • ・貧血の治療:輸血や赤血球を増やす薬を使います。
    • ・感染症の予防・治療:抗菌薬や抗ウイルス薬の予防内服や、発熱時の迅速な対応を行います。
    • ・痛みのコントロール:痛み止め(鎮痛薬)を適切に使用します。

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