胆道がん

胆道がんの解説

1. 胆道がんの特徴について

胆道とは、肝臓で生成された胆汁を十二指腸まで運ぶ管のことを指します。胆道は、肝内胆管、肝外胆管(肝門部領域胆管と遠位胆管)、胆嚢、十二指腸乳頭部から構成されており、胆道にできたがんを総称して『胆道がん』と呼びます。
胆道がんは2022年には全国で年間約2.4万人が新規に罹患しています。さらに、年間約1.8万人が胆道がんで死亡しており、これは全がん死亡数の6位にあたります[1]
年齢別に見た胆道がんの罹患率・死亡率はともに50歳代から増加します。
胆道がんの罹患率には性差があり、男性の罹患率は女性の約1.2倍となっています。また、死亡率も男性の方が高いです。

2. 胆道がんの発生部位による分類(下図参照)

  • 1. 肝内胆管がん:肝臓内の胆管に発生するがんのことで、原発性肝がんの3~7%を占めます。危険因子には、生活習慣(飲酒、糖尿病、肥満、喫煙)、慢性肝疾患(ウイルス性などの肝炎、肝硬変)、胆道系の慢性炎症(原発性硬化性胆管炎、肝内結石症)、肝吸虫、先天性胆道拡張症、化学物質(トリウム-232、ジクロロメタン、1,2-ジクロロプロパン)、カロリ病、炎症性腸疾患などがあります。
  • 2. 肝外胆管がん:肝外胆管がんはがんの存在する場所により肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんに分けられます。危険因子には、原発性硬化性胆管炎、化学物質(ジクロロメタン、1,2-ジクロロプロパン)、肝吸虫、膵・胆管合流異常などがあります。
  • 3. 胆嚢がん:胆嚢に発生するがんです。危険因子に膵・胆管合流異常、胆嚢結石(特に3cm以上、有症状例、長期保有例)などがあります。
  • 4. 十二指腸乳頭部がん:胆管と膵管が十二指腸に開口する十二指腸の部分に発生するがんのことです。家族性大腸腺腫症という遺伝性疾患では、十二指腸乳頭部がんの発生リスクが高くなります。

胆道がんの発生部位による分類

3. 症状について

胆道がんの初期症状は胆道閉塞による症状がみられることが多く、黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなる)、尿が濃くなる、便の色が薄くなる、かゆみが出る、倦怠感、腹痛、食欲不振などの自覚症状が出ることがあります。胆石による黄疸とは異なり、発熱や腹痛のない黄疸が胆道がんを疑う場合の典型的な症状です。一方で、症状に乏しく進行するまで見つかりにくい場合も多いです。

4. 診断のための検査について

胆道がんが疑われた際には、血液検査と画像検査を行います。

1)血液検査
胆道の異常をきたした際には、肝・胆道系酵素(AST、ALT、γGTP、ALP、ビリルビン)の上昇が見られます。また、進行した病状の場合には腫瘍マーカー(CA19-9、CEA)が上昇する事もあります。
2)画像検査
腫瘤の存在や胆管閉塞の有無を確認するために行われます。

  • ・腹部超音波検査:もっとも簡便な検査で、初期検査として非常に有用です。肝臓や胆嚢、膵臓を中心に腫瘍を疑う病変がないか調べます。また、超音波を用いて皮膚の外から針を刺して組織を採取して病理診断を行うこともあります。
  • ・造影CT検査:造影剤を用いることで腹腔内を詳細に調べることができます。また、手術や薬物療法の前において、病変の周囲への広がりや転移の状態などの有用な情報が得られます。また治療中の病状評価にも用いられます。
  • ・MRI/磁気共鳴胆管膵管撮影(MRCP):肝臓や胆管を描出することができ、また、胆管閉塞の部位を調べることができます。また、病変の性状を評価し良性腫瘍との鑑別に用いたり、転移の有無を調べたりする際に有用です。
  • ・内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP):レントゲンを使用しながら行う内視鏡検査です。閉塞した胆管や胆汁を組織検査や細胞診検査に提出し、がんの病理診断を行います。また、胆管内に専用の細径の超音波プローブや病変を直接観察できる胆道鏡を用いて、病変の良悪性の判断や悪性の場合には病変部の広がりや浸潤を評価し、手術を決定するための有益な情報が得られます。閉塞した胆管に胆管ステントを挿入することも行います。
  • ・超音波内視鏡検査(EUS):胃や十二指腸から胆道を超音波で観察することで腹部超音波検査よりも近接した画像が得られます。超音波内視鏡穿刺吸引術(EUS-FNA)により組織採取を行うこともできます。

5. 治療法について

1)手術が可能な胆道がん
転移がなく、血管との位置関係を評価した上で病巣を取りきることが可能と判断された場合は、手術が適応となります。手術の術式は、がんの部位と広がりに応じて様々であり、それぞれによって体に与える侵襲も異なります。術後は、再発を予防する目的で術後補助化学療法が行われます。術前治療が臨床試験で行われることもあります。

  • ・術後補助化学療法:手術後の再発防止のための化学療法です。日本臨床腫瘍研究グループによる大規模な臨床試験の結果、胆道がん手術後の患者さんに対して、エスワン補助化学療法により生存期間が有意に延長することが示されました[2]
2)切除不能胆道がん
腫瘍が広範囲に広がっているため手術が出来ない場合や遠隔転移を認める場合には全身薬物療法を行います。
全身薬物療法は、主にゲムシタビン+シスプラチン併用(GC)療法やゲムシタビン+エスワン併用(GS)療法、これらを組み合わせたゲムシタビン+シスプラチン+エスワン併用(GCS)療法などの細胞障害性抗がん剤を用いた治療が行われてきましたが、近年は、免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブやペムブロリズマブをGC療法に組み合わせた治療法の有用性が示されるようになり、胆道がんに対しても広く用いられるようになってきました [3], [4]。さらに、2019年より保険承認されたがん遺伝子パネル検査によりがんの関連遺伝子を解析し、特定の遺伝子変異を標的とする治療が注目されています。胆道がんにおいては、FGFR2融合遺伝子変異に対する分子標的治療薬として、ペミガチニブやフチバチニブの有効性が示されており保険承認されています。頻度は非常に少ないですが、NTRK融合遺伝子変異やBRAF遺伝子変異が認められた場合も保険承認された有効な治療薬があります。また胆道がんはIDH1遺伝子、ERBB2遺伝子、BRCA遺伝子の変異が比較的みられることも知られており、近い将来にこれらを標的とした治療薬も臨床応用されることが期待されています。以上のことより、積極的に遺伝子パネル検査を行うことが勧められています。

胆道がんの主な薬物療法

カテゴリ 治療法/薬剤名 説明
化学療法(細胞障害性抗がん剤) GC療法
(ゲムシタビン、シスプラチン)
ゲムシタビン単剤療法と比べて有効性が示されています。
GS療法
(ゲムシタビン、エスワン)
有効性においてGC療法との非劣性が示されています。
GCS療法
(ゲムシタビン、シスプラチン、エスワン)
GC療法と比べて有効性が示されています。
GC療法+
免疫チェックポイント阻害薬
GCD療法
・(ゲムシタビン、シスプラチン、デュルバルマブ)
・GCP療法(ゲムシタビン、シスプラチン、ペムブロリズマブ)
GC療法と比べて有効性が示されています
分子標的治療薬 ・ペミガチニブ
・フチバチニブ
FGFR2融合遺伝子変異を有する治療切除不能な胆道がんに対する2次治療以降の治療法として有効性が示されています。
・エヌトレクチニブ
・ラロトレクチニブ
NTRK融合遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍に対する治療薬。
・タブラフェニブ+トラメチニブ療法 BRAF遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍に対する治療薬

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References

  • 1.がんの統計2023, URL; https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/2023_jp.html
  • 2.Nakachi K, Ikeda M, Konishi M, et al. Adjuvant S-1 compared with observation in resected biliary tract cancer (JCOG1202, ASCOT): a multicentre, open-label, randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet. 2023;401(10372):195-203.
  • 3.Oh DY, Ruth He A, Qin S, et al. Durvalumab plus Gemcitabine and Cisplatin in Advanced Biliary Tract Cancer. NEJM Evid. 2022;1(8):EVIDoa2200015.
  • 4.Kelley RK, Ueno M, Yoo C, et al. Pembrolizumab in combination with gemcitabine and cisplatin compared with gemcitabine and cisplatin alone for patients with advanced biliary tract cancer (KEYNOTE-966): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2023;401(10391):1853-1865.

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