造血幹細胞移植チーム

理念

私たち大阪国際がんセンター造血幹細胞移植チームでは、長い歴史と豊富な経験をもとに、一人でも多くの血液がん・血液難病の患者さんに、成功率の高い移植治療を提供します。

造血と造血幹細胞について

血液の中には、赤血球・白血球・血小板といった人の生命を維持するために必須の血液細胞が数多く含まれています。人の体は成人で約37兆個もの細胞で構成されていると試算されていますが、その中でも最も多いのが血液細胞です。なかでも赤血球は総数で約20兆個以上あり、毎秒200万〜300万個が新しく作られ、体内を循環する血液中へと送り出されています。このように、生命に必要な血液細胞を造ることを「造血」と呼びますが、そのおおもとで全ての血液細胞を作り出す能力を持っているのが造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)です。造血幹細胞は、赤血球・白血球・血小板へと成熟する性質(「分化」といいます)と、自らと同じ性質を持つ細胞を生み出す性質(「自己複製」といいます)とを兼ね備えており、生涯を通じて人の造血を維持する能力を持っています。この細胞は、成人ではほとんどが骨髄に存在していますが、普段の状態でごく少数体内を循環していることが知られています。この血液中を循環する造血幹細胞は、G―CSFなどの白血球を増やす薬を投与すると、劇的に増加します。また、お母さんのお腹の中にいる胎児では、造血幹細胞は主に肝臓に存在し、血液中にもたくさん流れています。そのため、赤ちゃんの臍の緒の血液は、造血幹細胞をたくさん含んでいます。

造血幹細胞移植とは?

血液の病気には、白血病・悪性リンパ腫をはじめとする血液がんや、再生不良性貧血などの難病があります。これらの病気は、治療の進歩によってお薬だけで良くなることも増えていますが、再発や治療抵抗性をきたす患者さんを少なからず経験します。そのような場合、通常の治療だけでは治癒を望めないため、より強力な治療が必要となります。しぶとく残っている腫瘍細胞を根絶させるような強力な治療を行うと、自分自身の「造血」が回復できなくくらいのダメージを受けます。そのような場合に行うのが「造血幹細胞移植」です。この造血幹細胞移植には、大きく分けて、他の人からの細胞を移植する「同種造血幹細胞移植」と自分の細胞を保存しておいて移植する「自家造血幹細胞移植」の2種類があります。

同種造血幹細胞移植
難治性の白血病や重症再生不良性貧血に対する根治的な治療法です。同種移植(自分ではない他人からの移植)は、ヒト白血球抗原という白血球の血液型ができるだけ適合したドナーを選んで行います。それでも移植されたドナーの免疫細胞が、患者さんの体を攻撃する反応(移植片対宿主反応)が、ある程度生じます。この反応は、強く起こりすぎると臓器に深刻な障害をきたし、致命的になる危険な合併症です。その一方で、患者さんの体の中にしぶとく残った白血病細胞も攻撃し、再発を抑えてくれる効果も持っています。このことから、同種造血細胞移植は、抗がん剤や放射線だけでなく、生きた細胞の力も利用した免疫療法という側面を持った治療といえます。同種移植治療を計画する際には患者さんとできるだけヒト白血球抗原が一致した健康体のドナーを探し、適切なタイミングで移植治療を実施することが大切です。患者さんそれぞれの状況を考慮して、血縁者、骨髄バンク、または臍帯血バンクの中から最適な造血幹細胞を用います。最近は移植後の免疫抑制技術が進歩し、ヒト白血球抗原が半分しか合致していない血縁ドナーからの移植も実施可能となっています。
自家造血幹細胞移植
抗がん剤や全身放射線照射による前処置の後、あらかじめ採取し、凍結保存しておいた患者さんご自身の造血幹細胞を移植します。この場合の造血幹細胞の採取は、骨髄からではなく、G―CSFという白血球を増やす注射をして血液中にたくさん流れ出た造血幹細胞を機械で収集して行います。そのため「自家末梢血幹細胞移植」と呼ばれます。血液中への腫瘍細胞の混入の可能性が低い悪性リンパ腫や多発性骨髄腫の患者さんに対して、一般的に行われる治療方法です。

大阪国際がんセンター 造血幹細胞移植チームの歴史

血液のがんである白血病は、1960年代まで不治の病でした。しかしその後、抗がん剤の進歩に加え、造血幹細胞が含まれる骨髄を用いた移植治療法が開発され、治る可能性のある病気となりました。日本では1978年に金沢・名古屋・大阪の3地域で同種骨髄移植が始まりましたが、大阪での移植を行ったのが大阪国際がんセンターの前身である大阪府立成人病センターです。大阪府立成人病センターの移植チームは黎明期の骨髄移植を支え、骨髄バンクの設立に尽力し、日本の造血幹細胞移植治療の発展を牽引してまいりました(写真1,2)。不治の病であった白血病も、現在では10人に7人以上の患者さんに長期生存してもらえるようになっています。
2017年3月に大阪府立成人病センターは現在の大阪市中央区大手前への移転し、名称が大阪国際がんセンターとなりました。それとともに血液内科は、クラス100の病室6床を含む計33床の無菌病棟を預かり(写真3)、国内有数の規模となりました。それまで年間約30例程度であった造血幹細胞移植が80~90症例と飛躍的に増え、西日本で第1位・全国でも5本の指に入る移植数を担っています。2023年は最新の細胞療法であるキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T療法)を含め、101例の症例に細胞療法を行いました(図1)。

図1 造血幹細胞移植数の年次推移

大阪国際がんセンター 造血幹細胞移植チームの特色

造血細胞移植においては本邦のパイオニアの一つであり、長年培われた伝統・豊富な実績・良好な治療成績を誇っています。複数の血液専門医・移植認定医・造血細胞移植コーディネーターに加え(血液内科スタッフ紹介:https://oici.jp/hospital/department/gansenmoni/ketsuekikagaku/)、経験豊富な看護師・薬剤師・臨床心理士・リハビリセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)・栄養士・歯科医師・歯科衛生士の全てが施設内に勤務しており、一丸となって移植患者さんを支えるチーム医療を実践しています(写真4)。
血液の病気を治すだけでなく、退院後の生活を見据えたリハビリテーションや、栄養士・臨床心理士にも相談可能な移植後の長期的フォローアップの体制を構築しています。また、妊孕性保存を含め若年で移植を受けられた患者さんを多角的に支援するチーム(AYA世代サポートチーム:https://oici.jp/hospital/aya/)、患者さん・ご家族のさまざまな悩みや問題に対する相談支援を行う相談支援センター(https://oici.jp/hospital/patient/gansoudan/)との連携など、充実した診療体制を整備しています。センター内各部署や有志企業とも連携して、移植後の皮膚障害などに対するアピアランスケアにも注力しています。

学術的取り組み

私たちのチームは、目の前の患者さんの治療に日々取り組むと同時に、難治性の血液疾患に対する未来の治療開発に向けて、独自にあるいは当センター研究所・大阪大学・薬剤メーカーなどと連携し、多くの臨床研究・基礎研究に取り組んでいます。

 

現在進行中の研究課題
「がん免疫療法における血液学的免疫関連有害事象に関する研究」
「濾胞性リンパ腫及び辺縁帯リンパ腫の臨床経過等に関する後方視的調査研究」
「HLA 半合致移植後合併症に 移植後シクロフォスファミド投与量が与える影響に関する検討」
「当院における成人T細胞白血病リンパ腫に対する同種造血幹細胞移植成績に関する研究」
「成人T細胞白血病・リンパ腫患者における新規治療標的としての免疫調整因子に関する研究」
「造血発生を誘導する新規遺伝子Ahedの生理的機能と白血病発症に関与する分子機構の解明」
「造血細胞移植と精製ミトコンドリアを用いた致死的ミトコンドリア病に対する新期治療方法の開発」
「ヒト急性骨髄性白血病の腫瘍幹細胞に発現する細胞表面抗原を標的とした新規治療の開発」

 

研究成果は、国内学会だけでなく国際学会において、精力的に発信しています。2023年の欧州骨髄移植学会総会では、当センター血液内科が映像で紹介されました。(リンク:
https://www.youtube.com/watch?v=Cn_1ryi4gYE&list=PLd5j0y9uSMDkM077K7uNWrYu-QdzgE4To&index=6

移植関連学会の認定

日本血液学会 専門研修認定施設
日本造血・免疫細胞療法学会 非血縁者間造血幹細胞移植認定診療科 認定カテゴリー: 1
日本骨髄バンク 非血縁者間末梢血幹細胞採取認定施設
骨髄移植推進財団 認定施設
さい帯血バンクネットワーク 認定施設

医療関係の方へ

当センターの社会的ニーズを鑑み、血液がんに対する造血幹細胞移植や免疫細胞療法の症例を、特に積極的に受け入れてまいりました。移植症例数は漸増しており、今後CAR―T療法をはじめとする新しい細胞療法が臨床の現場に導入されるため、ますます当センターが果たすべき役割が大きくなると予想しています。その役割を果たしていくためには人員の充実が必須ですが、血液疾患・造血幹細胞移植の患者さんを診療可能な医師・医療機関の数は慢性的に不足しています。血液内科診療にご興味のある医療関係者方や、地域連携を視野に置かれている医療機関の方の見学は随時承っています。血液内科での経験を希望される若手医師の臨床研修やレジデント勤務のご相談も、古い学閥体質とは全く関係なく承っています。熱意のある若手医師、大歓迎です。ご希望がありましたら、遠慮なくご連絡ください。(連絡先:横田 貴史 メールアドレス yokotat@oici.jp

写真1 移植黎明期の大阪成人病センター移植チームのスタッフとED Thomas博士ご夫妻

写真2 放射線全身照射中の患者さんを見守る黎明期の移植チーム

写真3 現在の血液内科移植病棟(11階さくら病棟)とクラス100の無菌室

写真4 血液内科移植チームの集合写真

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