前立腺がん

前立腺がんの解説

1. 前立腺がんとは?その特徴は?

 前立腺は、男性の生殖器系の一部として精液の一部分となる前立腺液を作る臓器であり、膀胱直下に尿道を取り囲むように位置しています。前立腺がんは前立腺に発生するがんであり、前立腺の細胞が正常な細胞増殖能を失い、無秩序に自己増殖することで発生します。前立腺がんは主に50歳以上の男性に多い癌であり、現在の日本では男性における最も罹患率の高い癌と言われています。

 前立腺がんの発症リスクに関わる因子としては、遺伝的要因があると言われています。例えば第一度近親者(親・兄弟・子供)に1人の前立腺がん患者がいる場合、前立腺がんになる相対的なリスクは2.46倍になると報告されています。食生活や生活習慣については、食事や喫煙などが前立腺がんの発症リスクを上昇させるという報告がある一方で否定的な報告もあるため、まだはっきりとしたことはわかっていません。

 前立腺が作る前立腺液にはPSAというたんぱく質が含まれており、ほとんどのPSAは前立腺から精液中に分泌されますが、ごく一部が血液中に取り込まれます。前立腺がん細胞は多くの場合PSAをたくさん分泌するため、血液中のPSAの濃度が上昇します。これを利用して血液中のPSA濃度を測定することで前立腺がんの可能性が高いかどうかを調べることができます。また前立腺がんの増殖には、男性ホルモンが重要な役割を果たしています。男性ホルモンを抑制すること(内分泌療法・ホルモン療法と呼びます)が前立腺がんの治療のひとつとなっているのはこのためです。

 前立腺がんは早期発見できれば治癒することが可能です。多くの場合比較的ゆっくり進行する癌と言われています。前立腺がんの中には進行が非常に遅いタイプがあり、前立腺がんの状態や患者さんの状態によっては寿命に影響を及ぼさないと考えられる場合があります。一方で、進行するとリンパ節や骨に転移することが多い癌です。肺や肝臓などに転移をきたすこともあります。

【模式図(矢状断)】

2. 症状

早期の前立腺がんでは多くの場合自覚症状がありません。進行すると、尿が出にくい・排尿の回数が多いなどの排尿の症状に加えて、血尿や骨転移のある場所の疼痛などがみられるようになります。ただし排尿の症状に関しては、ほかの前立腺の病気と共通した症状であるため、前立腺がんの症状とは断定できません。泌尿器科での専門的な検査が必要です。

3. 診断・検査

1)PSA検査
血液中のPSA濃度の測定は前立腺がんを早期発見するために最も簡便で有用な検査です。PSA値の基準値は、一般的には0~4ng/mLとされています。ただし40~50歳台の比較的若齢者の場合は、基準値を下げて考える場合もあります。PSA値は前立腺がんが存在している場合に上昇しやすいですが、前立腺肥大症や前立腺の炎症によっても上昇します。PSA値が4~10ng/mLの場合をいわゆる「グレーゾーン」といい、25~40%程度の割合で前立腺がんが発見されます。
2)直腸診・経直腸的超音波検査
直腸診は、医師が肛門から指を挿入して前立腺の大きさや形・その硬さを確認する検査です。前立腺の表面に凹凸があったり、左右非対称であったりする場合、前立腺が石のように硬い場合などに前立腺がんを疑います。経直腸的超音波検査は、超音波を発する器具を肛門から挿入し、前立腺の性状を調べる検査です。
3)画像診断(MRI検査・CT検査・骨シンチグラフィー検査)
MRI検査では、がんが前立腺のどのあたりにあるのか、前立腺の外側への浸潤がないのか、前立腺付近のリンパ節への転移がないか、などについて調べることができます。CT検査や骨シンチグラフィー検査では、リンパ節転移・肺などの臓器転移・骨転移の有無を調べることができます。
4)前立腺生検
PSA値や直腸診・MRIなどの画像検査にて前立腺がんの疑いがある場合、最終的な診断のために前立腺生検を行います。前立腺生検では、超音波検査による画像で前立腺の状態を観察しながら、細い針を前立腺に刺して組織を採取します。得られた前立腺組織を病理検査に提出します。前立腺生検の合併症には、出血(便に血が混じる・血尿が出る・精液に血が混じる)・感染症・排尿困難などがあります。重篤な感染症になることは稀ですが、生検の後に高熱が出た場合は担当医に報告することが重要です。

【Grade Group分類】

病理組織診断では、前立腺がんの悪性度を評価するために、「Grade Group」という指標が使われます。これは前立腺組織の病理検査を基にして、癌細胞の形態や増殖の程度を評価したものです。Grade Groupは1から5までの5段階に分類されます。この分類は、Gleasonスコアというスコアリングシステムを基にしています。グリソンスコアは第一グリソンパターンと第二グリソンパターンの数値の和で示されます。いずれも数値が高いほど癌の悪性度が高くなります。

Grade Group 1:グリソンスコア3+3に相当
Grade Group 2:グリソンスコア3+4に相当
Grade Group 3:グリソンスコア 4+3に相当
Grade Group 4:グリソンスコア 4+4に相当
Grade Group 5:グリソンスコア 4+5, 5+4, 5+5に相当

【表1 前立腺がんの病期分類 TNM分類】

【転移のない前立腺がんのリスク分類:NCCNリスク分類】

4. 治療

前立腺がんの主な治療として、監視療法・前立腺全摘除術・放射線治療・内分泌療法(ホルモン療法)・化学療法が挙げられます。

転移のない前立腺がんの場合は、前述のNCCNリスク分類や患者さんの年齢・期待余命(あとどれくらい生きられるかという見通し)・希望を考慮して、監視療法・前立腺全摘除術・放射線治療・内分泌療法から治療法を選択します。

監視療法とは、定期的なPSA検査や前立腺生検を受けていただき癌の性状が増悪しなければ、根治的な治療を行わずにできるだけ経過を見ていくという方法です。

前立腺全摘除術は、開腹手術や腹腔鏡手術・ロボット手術などで行います。主な合併症としては尿失禁と勃起・射精の消失です。尿失禁は術後経過とともに改善していくことが多いです。症例によっては、勃起能を温存するための神経温存の術式が適応になります。

放射線治療として、外照射(体の外側から放射線を当てる方法)や組織内照射(前立腺内に医療器具を挿入し、そこから放射線を当てる方法)といった方法があります。再発リスクの高い症例に対しては、内分泌療法を併用することがあります。

転移がある前立腺癌に対しては、内分泌療法を中心とした治療となります。前立腺がんの転移部位やその数、腫瘍の悪性度によっては、内分泌療法に加えて新規ホルモン剤を追加する場合や抗がん剤治療を追加する場合があります。

【転移のない前立腺がんの治療】

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