胞巣状軟部肉腫 Alveolar soft part of sarcoma (ASPS)

  • 診療内容 / 実績
【疾患概念、発生頻度】
胞巣状軟部肉腫(ASPS)は30歳以下の若年成人、やや女性に多く発生し、ASPSCR1-TFE3融合遺伝子を持つ稀な悪性軟部肉腫である。悪性軟部腫瘍の約1%を占め、四肢や臀部などに発生し緩徐な増大を示す。しかし早期から遠隔転移を認める症例も多く、その生命予後は5年生存率で50%前後と不良である。
【臨床症状または病態】
緩徐に増大する腫瘍で、無痛性である場合が多い。また初診時より肺などに遠隔転移を認める場合も多く、当センターでも約70%の症例に初診時遠隔転移を認めた。
【必要な検査とその所見】
MRI、CT(PET-CT)、X線検査を行う。MRIでは分葉状の軟部腫瘤であり、T1でIso-Low、T2で不均一Highな信号を示す。胸部X線やCTにて多発する肺転移の有無を評価する。若年成人に造影CTやMRAで非常に血管に富む腫瘍を認めた場合に本疾患を鑑別に挙げる必要がある。また脳転移を認める症例もあるため頭部MRIも施行すべきである。
【診断のポイント、コンサルテーション】
確定診断には、病理検査が必要である。非常に稀な疾患であるため病理診断が困難であり、また生検時に出血のリスクが大きいため、速やかに専門施設への紹介が必要である。診断にはRT-PCRなどの検査によりASPSCR1-TFE3融合遺伝子の検出が必要である。
【治療方針】
基本的には外科的切除が第一選択である。しかし遠隔転移がある場合にはその限りではない。アドリアマイシンなどの骨軟部腫瘍で専ら行われる化学療法は有効性を示さないことが多い。しかし近年VEGF(血管新生増殖因子)シグナルと腫瘍増殖の関係が研究されパゾパニブ(ヴォトリエント)の有効性が報告されており、当院では第一選択薬としてパゾパニブを使用する頻度が増えている。パゾパニブを補助化学療法として使用するかどうか、さらには原発巣の切除が必要かどうかは議論の余地がある。放射線治療の有効性は明らかではない。
【合併症と予後】
予後不良な疾患であり5年生存率は約50%と報告されている。当センターでも同様に約60%であった。しかし初診時に肺転移を認めた症例であってもパゾパニブを用いることで近年の症例では生存率の大幅な改善が認められている(下図)。加えて脳転移を認めた場合は脳出血を起こす可能性があり注意が必要である。また近年免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が行われ、良好な結果であったと報告されており臨床応用が期待される。

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