食道がん
食道とは
食道は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cmぐらい、太さ2~3cm、厚さ約4mmの管状の臓器です。食道の大部分は胸の中(約20cm)ですが、一部は首(約3cm)と腹部(約2cm)にもあります。食道は身体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています(図1)。
食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと、筋肉でできた食道の壁が動いて食べ物を胃に送り込みます。食道の出口には、胃内の食物の逆流を防止する機構があります。食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません。
図1
食道がんについて
食道に発生するがんを食道がんと言います。日本における食道がんは、図2のオレンジ色の線が示すように、国民人口の高齢化に伴い数が増加しています。そして、図3にあるように年齢別に見ると、発症年齢は男女とも70歳前後と高齢者に多い傾向があります。また、図2の水色の線が示すように、食道がんの死亡率の年次推移は1975年に比べると男女ともに増加はしていますが近年減少傾向であり、年齢調整死亡率(高齢化を考慮して計算し直した死亡率)でも減少傾向にあります。
食道がんの発生
食道がんは、食道の内面をおおっている粘膜の表面からできます。食道のどこにでもできる可能性がありますが、約半数が食道の中央付近からできます。また、食道内にいくつも同時にできることもあります。
図4で食道がんの深さを表すT分類が示すように、食道の壁の粘膜内にとどまるがんを早期食道がん(T1a)、粘膜内から粘膜下層までのがんを食道表在がん(T1aとT1b)と呼びます。食道の粘膜から発生したがんは、大きくなると食道の外側へと広がっていき、食道の壁を越えて気管や大動脈などの周囲の臓器にまで直接広がっていきます(T2〜T4)。また、食道の壁内にあるリンパ管や血管にがんが浸潤し、リンパ液や血液の流れに乗って、食道外にあるリンパ節や肺、肝臓などの他の臓器へと移っていきます。これを転移といいます。
食道がんの原因
食道がんには、大きく分けて2種類あります。ひとつは扁平上皮癌で、もうひとつは腺癌です。日本人の場合、扁平上皮癌が約86%、腺癌が約7%と圧倒的に扁平上皮癌が多いことが知られています。いずれにおいても発症には複数の要因が関与していますが、傾向が少し異なることが知られています。
扁平上皮癌では、喫煙と飲酒が危険因子として重要であり、喫煙と飲酒両方を併用することで食道がん(扁平上皮癌)のリスクは8倍になるとも言われています。一方で腺癌は日本では発症頻度は低いものの、胃食道逆流症や肥満が食道がん(腺癌)のリスクの上昇と関連することが知られています。また腺癌においても、喫煙の併用はそのリスクを増加させることが知られています。
症状
食道がんは、初期には自覚症状がないことがほとんどです。がんが進行するにつれて、飲食時の胸の違和感、飲食物がつかえる感じ、体重減少、胸や背中の痛み、咳、嗄声(声のかすれ)などの症状が出ます。
胸の違和感は、早期発見のために注意しておきたい症状です。飲食物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛む、熱いものを飲み込んだときにしみる感じがするといった症状があります。これらの症状は一時的に消えることもあります。
がんが大きくなるにつれて、食道の内側が狭くなると、飲食物がつかえやすくなり、次第に軟らかい食べ物しか通らなくなります。がんがさらに大きくなると、食道をふさいで水も通らなくなり、唾液も飲み込めずに戻すようになります。飲食物がつかえると食事の量が減り、体重が減少します。
がんが進行して食道の壁を越え、周囲にある肺・背骨・大動脈などに浸潤すると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。また、食道がんが大きくなり、気管や気管支を圧迫したり、気管や気管支などに浸潤したりすると、その刺激によって咳が出ることがあります。また、声帯を調節している神経に浸潤すると声がかすれることがあります。
なお、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどの症状は、肺や心臓、のどなどの病気でも起こります。このような症状がある場合には、肺や心臓、のどだけでなく、食道の検査も受けることが大切です。内科や消化器内科などの身近な医療機関を受診するようにしましょう。
出典 がん情報サービス(https://ganjoho.jp/public/cancer/esophagus/about.html)
診断、検査
食道がんの検査には主に上部消化管内視鏡検査、CT検査、PET-CT検査を用います。がんのステージ(病期)を確認し、治療法を選択する上でこれらの検査から得られる情報が非常に重要です。
- 1. 上部消化管内視鏡検査
- 病変の位置、大きさ、深さを調べ、組織を採取して確定診断を行います。表在がんの症例では病変が粘膜にとどまるか、より深い層に達するかを評価し、内視鏡的な切除が可能か、手術が必要かも判断します。
- 2. CT
- 病変の位置、大きさ、リンパ節転移、気管や大動脈への浸潤、遠くの臓器への転移の有無を評価します。
- 3. PET-CT
- 通常のCTではリンパ節や他臓器への転移の評価が難しい場合に使用します。
食道がんのステージ(病期)診断
食道がんのステージ(病期)は、がんの深さ(T因子)、リンパ節への転移個数(N因子)、肺や肝臓といった他臓器への転移の有無(M因子)によって決まります。内視鏡やCT検査で得られた情報を用いてステージを決定し、個々の症例において適切な治療を選択します。
治療
食道がんの主な治療として、①手術治療(内視鏡的切除、外科手術)、②放射線治療、③化学療法、④免疫治療が挙げられます。多くの臨床試験の結果をもとに専門家が集まって検討を行い、専門家の間で合意を得ることで作成された食道癌診療ガイドラインには、食道がんの進行度(ステージ)に応じて、様々な治療法を組み合わせる治療(集学的治療)を行うことが推奨されています。
- ①手術治療
- 内視鏡的切除
- 上部消化管内視鏡を用いて、食道の内側からがんを切除する方法です。内視鏡によるがんの切除は、体への負担が少ないのが特徴です。対象となるのは、リンパ節転移のないステージ0の早期食道がんになります。合併症として、出血や穿孔、狭窄などがあります。
- 外科手術
- 食道がんの外科手術は、食道およびリンパ節の切除と食べ物の通り道を作り直す再建術の2つの要素があります。切除のために、頸部、胸部、腹部の3か所の手術が必要になります。再建は胃を細長い筒状にして頸部で食道とつなぐ方法が一般的です。合併症として、肺炎、縫合不全(つなぎめがうまくくっつかない)、嗄声(声のかすれ)などがあります。最近では、体に負担の少ない低侵襲手術として、胸腔鏡手術やロボット支援下手術が行われています。
- ②放射線治療
がんに放射線を照射してがん細胞を殺す治療法になります。照射されたがんおよびその周辺に限局した領域にのみに治療効果があります。 - ③化学療法
いわゆる抗がん剤と言われる薬を使った治療になります。投与された薬が、血液の流れに乗って全身に行きわたり、薬自身ががん細胞に対して効果を示します。 - ④免疫治療
免疫チェックポイント阻害剤と言われ、薬を投与することで患者さん自身の免疫細胞ががん細胞を攻撃する機能を高める薬であり、従来の抗がん剤とは違った薬となります。
日本食道学会より「食道癌治療ガイドライン」(最新2022年版、金原出版)が出版されています。また、日本癌治療学会のホームページ(http://www.jsco-cpg.jp/esophageal-cancer/)にはがん診療ガイドラインとして「食道癌診療ガイドライン2017年版」の一部が掲載されています。
―ステージ0・Ⅰの治療
cStage0、Ⅰ食道がんは、がんの深さの評価によって、内視鏡的切除の適応になるか、手術療法になるか、あるいは化学放射線療法になるかどうかが重要です。
cStage0と診断され、内視鏡的切除の適応となる場合、内視鏡的切除後の狭窄発生リスクを考慮し、切除後潰瘍の周在性が3/4周以上になると予想される病変の場合には、狭窄予防の処置を講じる必要があります。また、内視鏡的切除後の組織学的評価で、pT 1a -EP/LPMと診断された場合は経過観察でよいが、pT1a-MM/pT1b-SMと診断された場合は追加治療(手術療法または化学放射線療法)を考慮する必要があります。
cStageⅠと診断された場合は、患者さんの状態によって、外科手術または化学放射線療法を検討します。