脊索腫 Chordoma

  • 診療内容 / 実績
【疾患概念、発生頻度】
原発性悪性骨腫瘍の約4%を占め、約100万人に1人発症する。男性に多く、女性の1.8倍で、30歳以降に漸増し、好発年齢は50-60歳代である。原始脊索遺残組織より発生すると考えられており、頭蓋骨ならびに脊椎に発生し、好発部位は仙尾椎(約50%)である1)。また、良性脊索細胞腫が前駆病変である可能性も示唆されている2)
【臨床症状または病態】
特徴的な症状は特になく、発生部位に応じた神経学的な症状や、病的骨折に伴う疼痛が生じる。緩徐進行性のことが多く、発症から診断までの平均期間が2年以上とする報告もある3)
【必要な検査とその所見】
X線検査、CT、MRI、組織検査を行う。X線検査、CTでは溶骨性病変として描出され、骨皮質を破壊し骨外性の軟部腫瘤を形成することが多い。腫瘤内に不整形な石灰化を認めることも多い。年齢的に転移性骨腫瘍が鑑別に挙がるため胸腹部骨盤CT(可能であれば造影検査)、PETCT、腫瘍マーカーの測定を実施し精査しておくことが望ましい。MRIでは、T1強調像で低信号が主体だが、出血、高蛋白成分、粘液を反映した高信号域が混在することもある。T2強調像では不均一な高信号を呈することが多く、隔壁様構造を伴うことも多い。造影効果も不均一であり、粘液質な部分では造影効果は弱い。拡散強調画像では高信号を呈する。血液検査で特徴的な異常値は示さない。
【診断のポイント、コンサルテーション】
画像的に脊索腫の可能性は指摘できるが、確定診断には組織採取が必要である。免疫組織化学染色でbrachyuryの発現が確認されると診断的価値は高い。脊索腫は再発率の高い腫瘍であるため組織採取に際しては腹腔内播種や胸腔内播種に十分注意を払う必要があり、経直腸的な針生検も厳に慎むべきである。一般的には背側から行うCTガイド下生検が選択されることが多い。そのため、本疾患を疑えば、生検から専門施設で実施することが望ましい。
【治療方針】
治療は、いかに局所根治性を高め機能損失を最小限にするかが重要となってくる。脊索腫に対する根治的治療として第一に検討するのは本邦においては手術であるが、手術不能例もしくは手術拒否例に対しては重粒子線治療などの根治的粒子線治療の選択肢が存在する。手術は発生部位の解剖学的な問題もあり、再発率が高く(66~85%)、仙尾椎では膀胱直腸障害が高率に発生する。第3仙椎神経根まで温存できれば膀胱直腸機能が温存される可能性が高くなるため、第3仙椎以下に発生した場合は手術を考慮する。近年では重粒子線や陽子線などの粒子線治療の有用性が注目されており、重粒子線治療の局所制御率は治療後3年、5年、10年でそれぞれ81.9%、80.2%、71.9%であったと良好な治療成績が報告されている4)。現在有効とされるエビデンスが存在する化学療法はなく、今後の進展が期待される。
【合併症】
腫瘍によって神経障害が生じることもあれば、手術、粒子線治療のいずれの場合も発生部位に関連した神経障害が起こり得る。第1仙椎まで腫瘍が及んでいる場合は、膀胱直腸障害、性機能障害、足関節機能障害、耐え難い灼熱感などを含む会陰部の感覚障害などが生じる。重粒子線治療は治療直後にそれほど大きな合併症は発生してこないが、数年後に不可逆性の神経障害が出現してくることもある。手術は術後感染症・創部治癒不全の発生リスクが高く、重粒子線治療は皮膚障害に伴う難治性潰瘍が問題となることがある。
【予後】
悪性度は低から中等度となっているが、局所再発率が高く、遠隔転移は30%以上の症例に認め、10年生存率は30-65%とされる。予後不良因子に、大きさが8cm以上、若年者(20歳以下)などの報告がある。進行が緩徐であることにも関連しているが、初回治療後10年以上経過しても局所再発や遠隔転移が出現し得ることが特徴として挙げられる。そのため、通常の悪性腫瘍とは異なり20年以上の経過観察が必要という意見もある。
  1. 1) Tirabosco R, et al. Chordoma. In: World Health Organization (WHO) Classification of Tumours, 5th edition, Soft Tissue and Bone Tumours, p451-453, IARC, Lyon, 2020.
  2. 2) Yamaguchi T, et al. Incipient chordoma: a report of two cases of early-stage chordoma arising from benign notochordal cell tumors. Modern Pathol 18:1005-1010, 2005.
  3. 3) Stacchiotti S, et al. Building a global consensus approach to chordoma: a position paper from the medical and patient community. Lancet Oncol 16:e71-83, 2015
  4. 4) Dong M, et al. Efficacy and safety of carbon ion radiotherapy for bone sarcomas: a systematic review and meta-analysis

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