明細胞肉腫 Clear cell sarcoma

  • 診療内容 / 実績

1. 概念

メラノサイトへの分化傾向を示す軟部原発の肉腫で、Malignant melanoma of soft partsとも呼ばれる。組織学的にはメラノーマと類似しているが、遺伝子的にはメラノーマとは異なり、ほとんどの症例でEWSR1-ATF1融合遺伝子を有する。一般的に化学療法に抵抗性であり、遠隔転移を有する症例は極めて予後不良である。

2. 疫学・臨床的特徴

軟部肉腫の約1%とまれな腫瘍で、20歳から40歳代に好発する。約40%が足部や足関節周囲に発生し、約30%が膝、大腿、手に発生する。多くは腱や筋膜に接して発生し、時に疼痛を有する。比較的緩徐に増大し、腫瘤が出現してから診断まで数年かかる場合も多い。他の肉腫と比較し、所属リンパ節転移が高頻度(約30%)で生じる。また、初回治療後10年以上経過してからの再発や肺外転移もまれではなく、長期間にわたる慎重な経過観察が必要である。

3. 診断

明細胞肉腫は組織学的な胞巣状形態とメラノサイトへの分化を特徴とする。半数以上の症例はメラニン色素を産生するが、病理診断用HE染色では認識が通常難しく、腫瘍細胞は免疫組織染色でS100, SOX10, Melan-A, HMB45, MITF陽性を示す。70-90%の症例でt(12;22)(q13;q12)相互転座に起因するEWSR1/ATF1融合遺伝子を認め、黒色腫との鑑別に有用である。

4. 治療

既存の化学療法の有効性は乏しいという報告が多く、手術が治療の中心となる。

1)手術
他の肉腫と同様に、腫瘍に隣接する健常組織と一塊にして摘出する広範切除が原則である。しかし、本疾患は比較的緩徐に増大し、小さな腫瘍で発症することが多く、初回治療時に非専門医で不適切な切除が行われる例が多い。その場合には速やかに追加広範切除が必要となる。明細胞肉腫は、有用な化学療法がなく、広範切除の意義は非常に大きく、十分なマージンが確保できない場合は切断も考慮すべきである。また、所属リンパ節転移が高頻度で生じることから、センチネルリンパ節生検やリンパ節郭清の有用性を示唆する論文があるが、症例数が少なくまだ十分なデータはない。転移巣に対する手術の有用性についても、明確なエビデンスはなく、症例ごとに多診療科での検討が必要である。
2)放射線治療
明細胞肉腫に対する放射線治療の有用性については、詳細に検討した報告はなく、特に放射線感受性が高いとは考えられていない。したがって一般的な非円形細胞軟部肉腫に準じた対応が望ましいと考えられる。切除不能で限局型の場合は、他の肉腫と同様に重粒子線治療の適応があるが、四肢の末端発生の腫瘍では重粒子線治療の合併症は多く、腫瘍が制御できても皮膚障害などの合併症により切断を余儀なくされることが多い。このため、初期治療において切断を回避するために重粒子線治療を選択することは勧められない。
3)化学療法
明細胞肉腫は、一般的な軟部肉腫に比較し、化学療法が効きにくいと認識されている。したがって、転移のない限局型の明細胞肉腫に対しては、化学療法は推奨されない。
切除不能な場合や、転移のある場合は、化学療法が選択肢の一つとなり、他の肉腫と同様に、Doxorubicine単剤やDoxorubicineとIfosfamideとの併用などの使用が報告されているが、残念ながら、奏効率は高くない。PazopanibやTrabectedin、Eribulinなど比較的新しい薬剤については、細胞株を用いた研究では効果を示す報告はあるものの、臨床の報告は少なく著効したという報告は見当たらない。

5. 予後

明細胞肉腫は悪性度の高い腫瘍であり、再発率は40%、肺やリンパ節への転移が20–50%の頻度で起こると報告されている。腫瘍の診断から10年以降に転移が明らかとなることも珍しくなく、5年・10年・20年の生存率は、それぞれ60%, 35%, 10%である。予後不良因子は腫瘍径5 cm以上、壊死、局所リンパ節転移と考えられている。

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