大腸がん
大腸とは
大腸は、結腸(虫垂、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)、肛門管、肛門と続く約2mの管です。小腸で栄養分の吸収が行われ、残りの消化物は大腸に送り込まれます。大腸は、小腸で吸収されなかった水分を吸収し、不要なものを固形状の便として肛門から排泄します。大腸の壁は粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5つの層でできています。
直腸とは
直腸は大腸の一部です。直腸は男性では膀胱、前立腺とともに、女性では膀胱、子宮、膣とともに骨盤内に存在します。直腸は、 直腸S状部(RS)、 上部直腸(Ra)、 下部直腸(Rb)に分かれます。直腸の主な働きは便を貯めることと言われています。
- 排便機能 排尿機能 性機能
-
直腸周囲の神経は射精機能や排便、排尿、勃起機能に関連します。また、直腸内圧が4上昇すると、刺激が脊髄に伝わり大脳で便意を意識します。脊髄反射で直腸筋が収縮して内肛門括約筋が緩むことで排便されます。このため、様々な職種の医療スタッフが直腸がんの治療をサポートします。
(直腸がんセンターのホームページをご覧ください)
大腸がんについて
大腸に発生するがんを大腸がんと言います。大腸の中で結腸(虫垂、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)に発生すると結腸がん、直腸に発生すると直腸がんと言います。大腸がんは日本でも近年増加傾向です。
日本での大腸がんによる死亡者数は年間5万人に達しております。年代別にみると年々増加しています。大腸がんは、がんによる死亡数の全体で第2位(男性3位、女性1位)です。男性は27,416人、女性は24,004人の方が大腸がんで亡くなっています。男性はおよそ11人に1人、女性はおよそ13人に1人が、一生のうちに大腸がんと診断されています。この罹患率は増加傾向にあります。2017年では、罹患数が第1位になっております。
また、年齢別にみると大腸がん(結腸・直腸・肛門がん)にかかる人の割合は、40歳代ごろから増加しはじめ、60〜70代でピークに達します。
大腸がんの発生
大腸がんの原因
大腸の粘膜の細胞(粘液を作る細胞)は、常にコピーされ新しい細胞に生え変わっています。この新陳代謝の過程で、コピーされた細胞の遺伝子にキズがつき、無秩序に増殖してしまう細胞が発生してきます。この細胞がポリープになり、さらにキズがつくことで浸潤したり転移したりするようになります。
大腸がんの要因
大腸がんの要因ははっきりとは分かっていません。しかしながら多くの要因が、複数影響しあって発症につながると考えられています。主要なリスク要因は以下の通りです。
- ①年齢
- 大腸がんの発症率は40歳以上で急激に増加します。
- ②肥満
- 特に内臓脂肪型の方はリスクが高いと言われています。
- ➂遺伝
- 詳細な原因はわかっておりませんが、血縁者に複数の大腸がんが認められることが約25%あるといわれています。しかし、たとえ血縁者にがんになった人が複数いたとしても、それが遺伝性のがんとは限りません。遺伝性大腸がんは、全大腸がんの5%未満と言われています。
- ➃食生活の欧米化
- 食生活の欧米化によって、脂質や動物性たんぱく質の摂取量が増え、炭水化物や食物繊維の摂取量が減っています。そのため便が大腸内に停滞する時間が長くなる傾向があります。特に赤身肉や加工肉が、大きく発症に関わっていると言われています。
- ⑤飲酒・喫煙
- 過度なアルコールの摂取や喫煙は大腸がんのリスクを増加させると言われています。
- ➅運動不足
- モータリゼーション(自動車交通)の発達により、日本人の歩数は確実に減っています。そのため、発がん物質が、大腸粘膜に長く滞在してしまい、影響を受けると考えられています。
- ⑦その他
- 炎症性腸疾患、Ⅱ型糖尿病、大腸ポリープなど様々な因子が指摘されています。
症状
大腸がんの初期症状は、ほとんどありません。がん検診を受けて、症状が出る前に見つけましょう。進行すると、血便、腹痛、便秘、下痢、体重減少などの症状が出てきます。
診断方法
- 大腸内視鏡検査
- 肛門から直径約12mmの内視鏡を挿入して、直腸から盲腸までの大腸を調べます。検査前に腸管洗浄液を1~2リットル飲んで大腸内をきれいに(前処置)してから検査を行います。
通常、検査は30分程度で終わり、多くの場合大きな苦痛はありません。 - CT
- 胸から骨盤までを撮影します。大腸がんの部位や周囲の臓器との位置関係、リンパ節転移や腹膜播種、肺や肝臓への転移の有無について調べます。
- MRI
- 直腸MRIは直腸がんの深達度や周囲の臓器へのがんの広がり、またリンパ節転移の有無を調べます。肝臓MRIはCTより小さな肝転移の病巣を検出することに適しています。
- PET
- 全身の転移検索を行う時に行います。他の方法でがん細胞は正常細胞と比べて糖代謝が活発であることが多く、18F-FDG という糖に放射性物質をつけたものを注射し、この放射性物質が集まるところを検出します。PET/CT検査を行うことでがん細胞の状態や位置の詳細な情報を得ることができます。保険診療上、他の検査で転移・再発の診断が確定できない場合のみ検査対象となります。また、がんが小さい場合や、活発ではない場合には見つけられない可能性もあります。(必ず必要な検査ではありません)
- 腫瘍マーカー
- 血液検査でがんを調べる方法です。大腸がんでは、CEAとCA19-9が一般的です。通常、術後再発の確認などに使われることが多いです。早期がんでは上昇しないことがほとんどです。また、進行していても上昇しないこともありますので、実施のところはあくまで目安として使われています。
大腸がんのステージ
大腸がんの進み具合(広がり)を「ステージ」と呼びます。
ステージは、以下の①~③の3つを総合して、ステージ0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの5段階に分類されます。ステージの数字が大きくなるほど、がんが進行している状態を表します。
- ①がんが大腸の壁に食い込んでいる程度 (深達度)
- ②リンパ節への転移の程度 (リンパ節転移度)
- ③肝臓や肺、腹膜など、ほかの臓器への転移の有無(遠隔転移)
大腸がんの治療
- ステージ別治療方針(標準治療)
-
多くの臨床試験の結果をもとに専門家が集まって検討を行い、専門家の間で合意の得られている治療法のことを「標準治療」といいます。大腸がんの治療では、ステージに応じて標準治療が設定されています。
- 内視鏡治療
-
早期がんに対しては、内視鏡治療で腸管を切除せずに根治切除が可能です。内視鏡治療には、ポリ白トミー、EMR、ESDといった3つの方法があります。
(消化管内科のホームページをご覧ください)。 - 手術治療
-
大腸がんの手術は、腫瘍と所属するリンパ節を一緒に切除します。リンパ節は血管に沿って存在し、深達度に応じてリンパ節転移率が高くなります。
腫瘍の部位によって、切離する血管と切除範囲を決定します。
-
手術のアプローチには、①ロボット手術、②腹腔鏡手術、③開腹手術があります。ロボット手術と腹腔鏡手術は、体に小さな孔をあけて行う手術です。開腹手術に比べて、傷が小さく、出血が少なく、術後の回復が早いと言われています。
近年、ロボット手術が結腸がんと直腸がんに対して普及してきています。(大腸外科のホームページをご覧ください)。
- 薬物療法
-
薬物療法(抗がん剤治療)は、血液の中に入って全身をめぐり、体内のがん細胞を殺したり、その増殖を抑えたりする働きをもつ薬による治療のことを言います。大きく分けて、2つの目的があり、根治切除後の再発リスクを下げる化学療法と根治切除が難しい場合に、がんを縮小させ病状の悪化を遅らせる化学療法があります。
使われる薬剤は、「殺細胞薬」、「分子標的薬」、「免疫チェックポイント阻害薬」などの種類があり、患者さんの全身状態や合併症の有無、がん細胞の性質(遺伝子変異など)を考慮して決めていきます。一般的には、殺細胞薬と分子標的薬を併用して治療することが多いです。
(腫瘍内科のホームページをご覧ください)。 - 放射線治療
-
高エネルギーのX線などを使ってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする治療法です。薬物療法と併用されることもあります。治療スケジュール治療は、治療の目的やがんの種類ごとに立てられた治療計画をもとに進められます。多くの場合、毎日少量ずつに分けて放射線を照射します。1回の照射にかかる時間は数分で、痛みはありません。放射線療法の副作用主な副作用は、治療中に起こる早期合併症(皮膚炎、疲労感、白血球減少、食欲不振など)と、治療後、しばらく経ってから起こる晩期合併症(膀胱炎、直腸炎など)があります。症状は照射する部位によっても異なります。(放射線腫瘍科のホームページをご覧ください)。
- がんゲノム医療
-
「がんゲノム医療」とは、「がん」の遺伝子を詳しく調べ、一人一人の遺伝子の変化に応じた治療などを行う医療です。最近の「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤はある特別な遺伝子変異によってその効果が異なることが知られています。保険診療で行えます。(がんゲノム診療科のホームページをご覧ください)。
最後に
大腸がんは切除できれば、治癒が期待できる比較的予後の良いがんです。
早期発見、早期治療がとても大切です。そのためにがん検診を定期的に受診されることをお勧めします。