宮代勲・がん対策センター所長&森島敏隆・政策情報部リーダーインタビュー
大阪国際がんセンターでは、医学研究「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」をスタートさせました。
吉本興業、松竹芸能、米朝事務所の協力を得て、この研究に協力頂く患者さんに2週間に1回、定期的にお笑いの舞台を楽しんで頂いて、どのような効果があるかを検証します。まず、本研究の目的と方法について、研究代表を務める宮代勲・がん対策センター所長と、研究協力者の主要メンバーである同センターの森島敏隆・政策情報部リーダーのインタビューをご紹介します。
がん対策センター所長
宮代 勲
がん対策センター 政策情報部リーダー
森島 敏隆
医学研究「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」の目的と方法は?
2週間に1回、「お笑い」を定期的に
宮代医師:落語や漫才など、2週間に1回、院内のホールで、お笑いの舞台「わろてまえ劇場」を計8回開催するのにあわせて行います。臨床研究としての必要な手続き行った後、対象者に説明を行い、同意の得られた方に参加頂きます。お笑いの舞台の1~4回目を楽しむA群と、5~8回目を楽しむB群に無作為に割り付ける患者さん約60人と、看護師ら医療従事者約50人に加え、全ての回を鑑賞するC群など約120人が研究に協力されます。
宮代医師:アンケート調査で「自己効力感」と「QOL指標」、血液検査で「免疫機能」を調べ、「笑い」が与える影響を評価します。ほかに血圧、脈拍を測定したり、表情や気分を調べる調査を行ったりします。主な比較はA群とB群で行います。研究に同意頂いた患者さんと医療従事者、お笑いの舞台を提供頂く演者のみなさん、大阪国際がんセンターの病院、研究所、事務局、そしてがん対策センターが一緒に、「笑い」のチカラを科学的に評価しようと真面目に取り組んでいます。
従来の「笑い」に関する研究と異なる点は?
働く世代を意識した研究
宮代医師:3点あります。お笑いの舞台を1回限りでなく、定期的に反復して提供していること。常日頃、がん治療と向き合い、緊張状態にある医療従事者も対象者としていること。さらに、検査対象の患者さんの年齢は、40歳以上65歳未満、医療従事者は20歳以上65歳未満で、働く世代を意識したものであることです。
「自己効力感」とは何ですか?
課題を与えられた時の見込み感
宮代医師:何か課題が与えられた時、「自分はきっとできる」という前向きな気持ちと、「どうせできない」という諦めの気持ちの大きく2つに分かれます。例えば、治療の際、「きっとよくなる」という気持ちになる人と、「どうせダメ」という消極的な気分になる人がいます。日常生活でも、「お笑いの舞台を楽しもうよ」と誘われた時に「行きたい」と思う人と、「どうせ楽しめない」と感じる人がいます。できるというセルフイメージを持てているかといった心理的見込み感を「自己効力感」と言います。
「自己効力感」を調べるアンケート調査について教えて下さい。
18項目を0~100点までで回答
宮代医師:日本人が考案した「SEAC」という方式のアンケート用紙「病気に対する効力感尺度」を用います。「わろてまえ劇場」スタートの1週間前と、同劇場2、4、6、8回目の終了後に行います。内容は「怒りを表に表すことができる」「夜は眠ることができる」など18項目に対して、「できる」という完全な自信がある場合を100点、まったく自信がない場合は0点として、10点刻みでその点数が記されており、参加者自身が、その時点でぴったりくる点数に○印を付けます。お笑いの舞台を楽しむ機会があったかどうかで、点数に違いがあるかを評価します。
「QOL指標」とは何ですか?
治療に踏み込んだ質問など30項目
森島医師:ヨーロッパで開発された「EORTC QLQ―C30」という方式のアンケート用紙「QOLアンケート」を使います。「自己効力感」のアンケートと同様、「わろてまえ劇場」のスタートの1週間前と、同劇場2、4、6、8回目の終了後に行います。アンケート回答日までの1週間について「緊張した気分か」「落ち込んだ気分か」「もの覚えが悪くなったと思うか」や、さらに体調や治療の実施に踏み込み「家族の一員としてのあなたの生活の妨げになったか」「社会的な活動の妨げになったか」「経済上の問題になったか」などや、体調などを問う質問30問あります。そのうち28問は、4レベル、2問は7レベルのうち、ふさわしいと思うレベルに○印を付け、点数化します。
アンケート調査をする意味とは、何でしょうか?
質問項目一つ一つに意味がある
森島医師:アンケート調査は軽んじられる場合がありますが、決してそうではない調査です。科学的にしっかりとしたアンケートを作るときには、他の尺度と比較するなどして何回も検証を重ねてはじめて、患者さんの主観的な評価ができるのです。科学的な調査であり、アンケートの項目一つ一つは、患者さんにとって、とても意味を持つものです。(森島医師)