北坂美津子・副看護部長インタビュー

医学研究「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」は、様々な医療従事者の意見、アイデアなどを集結させて生まれました。

その発案に貢献した、北坂美津子・副看護部長のインタビューを紹介します。

副看護部長
北坂 美津子

医学研究「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」を考え出されたきっかけは、何でしょうか?

笑って無心になると自分らしくなれる

2016年9月、当時の看護部長に「『笑いとがん医療』について、想いをまとめて」と言われたのが、きっかけでした。病が重くなればなるほど周りに気を使うなど、本当の自分を出しづらくなります。だから、「自分らしい気持ちになれば、(精神的に)楽になる」と考え、「笑って、無心になると、自分らしい気持ちになる」と思いつきました。その後、文献の検索や、QOL指標(生活の質)を研究されているがん対策センター政策情報部の森島敏隆・リーダーらと話し合いを進めて行き、同センター所長の宮代勲先生が「笑いで『自己効力感』は高まるか」というアイデアで研究計画をまとめてくださいました。

その後、「笑いの研究」の会議が開かれたということですが、展開を教えて下さい。

人の気持ちをどう実証するか

当初、「笑いの研究」というテーマで、宮代先生、森島先生、看護部長ら、医療と看護に携わる者で、月1回のペースで、会議が開かれました。1回のお笑いの舞台の鑑賞前後に免疫に関する測定をすることは、これまでにもされてきましたが、長いスパンの測定はありませんでした。しかも、QOL(生活の質)において、主観的な「人の気持ち」を実証するのは、大変困難。客観的に評価する方法を思案しました。

客観的に「人の気持ち」を実証する方法として、会議では、どのような提案がありましたか?

実は、唾液検査も案に浮上・・でも不適切

大きく分けて「アンケート」「血液検査」「唾液」という案が出ました。まず「アンケート」の各質問の意味づけをしないといけない。「血液検査」では、「ナチュラルキラー(NK)細胞」などの検査項目が、挙げられました。また、結局採用されなかったのですが、「唾液検査」でストレスを測定するという案も挙げられたのですが、唾液は採取する直前に食事や菓子類などを食べると、数値に影響し易く、正確性に欠けるので、却下となりました。

「研究計画書」作成では、どのような課題が浮上し、また、研究はどのように展開していきましたか?

大阪国際がんセンター3組織初の共同研究

会議では、医療の側面から発案する医師と、患者さまの主観的な気持ちを訴える看護師の双方の思いで、バランスをうまくとるよう努力しました。さらに「患者さまの同意」「患者さまへの侵襲性」「研究の倫理性」についても、考えなければいけません。また、左近賢人・病院長から、研究所の医師による協力について助言もあり、研究所腫瘍免疫学問の井上徳光・部門長と臨床検査科の井戸田技師長も、研究に参加することになりました。大阪国際がんセンターの病院、がん対策センター、研究所の3組織初の共同研究となった訳です。

研究に協力して頂く患者さま、その主治医らへの理解をどのように広められましたか?

外来の診察室へ即座に足を運び説明を

旧・大阪成人病センターからの移転引越し後、各診療部長に研究内容の理解を求め、診療部会や、外来診療前の時間を利用して、主治医に説明し、患者さんへの研究協力依頼をお願いしました。当初、「笑い」と「医療」を結びつけづらく、その点を力説しました。そして、外来の診察時に主治医が、患者さまに協力依頼を求め、合意してくださった患者さまがいらっしゃると連絡があれば、研究者が即座に駆けつけ、丁寧に研究内容を説明しました。4月中旬から3週間で、患者さま約70人のご協力を得ることができました。

患者さまには、どのように協力してい頂いているのでしょうか。

「わろてまえ劇場」の鑑賞回数でグループ分け

今、課題となっている患者さまの就労問題を鑑みて「同意取得のハードルは上がるが、働く世代の方々を対象にしよう」と宮代先生に言われ、私も賛成しました。「わろてまえ劇場」(全8回)の前半4回を鑑賞されるA群、後半4回を鑑賞されるB群を無作為に割り付け、8回すべてを鑑賞されるC群と共にグループ分けします。そして、前半4回において、鑑賞有無によるデータのグループ間比較や、4回鑑賞と8回鑑賞のグループ間比較もします。患者さまには、4回という制限に同意し、確実に参加していただくという協力をいただいています。

研究対象となっている医療従事者について教えて下さい。

がんと向き合う看護師を研究対象

看護師を研究対象としたのは、常にがんに罹患し治療を受ける患者さま、そのがんという病気に向き合うため精神的な負担を強いられ、全国的に離職率が高いとされているからです。前半後半で各24人を振り分けています。患者さんと同様の検査に加え「職業ストレス アンケート」も実施しています。

研究結果は、いつわかりますか?

年度内に国際論文に

宮代先生を中心として、今年中にデータをまとめ、今年度中に国際学術誌で、公表したいと考えています。