大腸外科
- 診療内容 / 実績
院長 大植 雅之 |
大腸外科長 安井 昌義 |
副部長 西村 潤一 |
副部長 賀川 義規 |
副部長 末田 聖倫 |
診療主任 北風 雅敏 |
診療主任 森 良太 |
大腸がん診療の特徴
- ・全手術件数:年間526例
- ・大腸がん切除件数:年間413例
- ・低侵襲手術割合:97%
- ・外来初診から手術まで21日(中央値)
- ・術後退院までの平均日数は10日
- ・集学的治療による根治切除の実践
大腸がんの初診から手術までの流れ
- 〜初診からのステップバイステップガイド〜
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当科では初診の患者様を対象に「Quick in外来」を導入しています。
Quick in外来では、初診時に手術までの時間短縮のためにCT検査を含むほとんどの検査を行うことが可能であり、治療方針の確定と治療開始までを出来るだけ早く行うことを目的としています。
初診時(Quick in外来)
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Quick in 受付(初診受付)
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問診
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入院前お薬外来受診
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血液検査、尿検査
主に腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)の測定を行います
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診察
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胸腹部骨盤CT検査
必要に応じて超音波検査
全身状態の検査- ・腹部エコー検査:造影剤を使用したCT検査を行えない場合に追加します
- ・全身状態評価の検査:胸腹部レントゲン、呼吸機能検査、負荷心電図など必要に応じて心臓超音波検査や下肢静脈超音波検査も追加します
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その他検査予約
次回外来予約- ・MRI検査:直腸がんの場合に追加します
- ・PET検査:さらなる全身検索が必要な場合に追加します
再診外来(1週間後)
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検査結果の説明
追加の検査が必要な場合は、この時点で説明し、日程調整を行います
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入院の手続き(入院前面談)
必要な検査が終了したら、麻酔科の診察を受けていただきます
入院・手術時
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入院日
病棟のオリエンテーションや術前後の流れ(クリニカルパス)について説明します。
手術前日までに手術内容の詳しい説明を行います -
手術日
午前手術の場合、9時入室です。
午後手術の場合は、午前手術終了後に入室となります
手術終了後、主治医より説明室にてご家族へ手術説明を行っています。 -
入院後経過
クリニカルパスを導入しております。
平日の朝7時50分より大腸外科スタッフ全員にて回診を行なっています。
術後の入院期間は、平均10日です
大腸がんの治療について
1.当院の大腸がん手術件数
2023 年の手術件数
- ・手術件数(全ての症例):526例
- ・大腸がん切除件数:413例
- ・結腸がん:248例、直腸がん:165例
- ・腹腔鏡手術:311件、ロボット手術:94例、開腹手術:8例
- ・低侵襲手術割合:97%
- 大腸がん手術症例数の年次推移(2013年〜2023年)
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・手術件数は増加傾向にあり、全国でもトップクラスです。
- 大腸がん部位別手術症例数の年次推移(2014年〜2023年)
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・直腸がんの手術件数とその割合が多いことが当院の特色です。
2.低侵襲手術への取り組み
大腸がんの手術は、低侵襲手術(腹腔鏡手術やロボット手術)を第一選択としています。特に、直腸がんの手術では、ロボット支援下手術を積極的に行い、肛門とその機能の温存、排尿機能や性機能の維持に努めています。ロボット手術は 2022年4月から結腸がんでも保険適用されており、結腸切除にも積極的に活用しています。
- 2-1. 大腸がん手術における低侵襲手術(腹腔鏡手術+ロボット支援下手術)の割合
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手術件数が増加傾向にある中でも、当センターは約 97%に低侵襲手術を実践しています。
- 2-2. 腹腔鏡手術とロボット手術の違いは?
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2-2-1.「腹腔鏡下手術」
腹腔鏡手術とは、お腹を大きく切開する従来の開腹手術とは異なり、臍(へそ)と側腹部に5mmや10mm程度の小さな傷をつくり、カメラと鉗子を挿入して手術を行う方法です。そのため、従来の開腹手術よりも体への負担が少ない(低侵襲)のが特徴です。また、腹腔鏡手術では、炭酸ガスでお腹を膨らませて(気腹)、高解像度のカメラとモニターを使って手術を行います。これにより、細かな血管や神経などを観察できるため(拡大視効果)、出血量が少なく、精緻な手術が可能です。さらに、入院期間が短くて済むことや、創の感染リスクが低いことや、傷が綺麗に治るなど、開腹手術に比べて利点があります。大腸がんに対する腹腔鏡手術は、2002年から保険適応となっており、手術や治療の成績が開腹手術とほぼ同等であることが報告されています。当院では、大腸がんの手術の97%以上を腹腔鏡手術で行なっています。
- <腹腔鏡下手術のポート創>
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マルチポート
単孔式
- <腹腔鏡下手術の実際>
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S状結腸癌に対する腹腔鏡下手術
下腸管膜動脈の切離
S状結腸の切離
腸管吻合(DST)
腸管吻合後
ロボット手術は、3次元の高画質モニターを通じて行います。ロボットの鉗子は、手振れがなく多関節可動となっており、人の手や指と同じような動きが可能です。そのため、複雑で精緻な手術が行えます。特に直腸がんの手術では、がんの完全な摘出だけではなく、肛門の温存、肛門機能や性機能、排尿機能などの機能を保持することが重要です。狭い骨盤の深部で行う直腸がん手術では、ロボット手術が有用であり、将来的には直腸がん手術の主要な方法になると期待されています。当センターの直腸がん手術は、ロボット手術が第一選択になっています。また2022年4月からは結腸がんにもロボット手術が保険適用となりました。当科では保険適用前から全国に先駆けて結腸がんにもロボット手術を行なっており、多くの患者様が良好な結果を得ています。また、2024年7月よりロボット3台目を導入しましたが、全ての結腸がんにロボット手術が適用されるわけではないため、詳細は気軽にご相談ください。
- ロボット支援下手術症例数の推移(2018年〜2023年)
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- <ロボット支援下直腸がん手術>
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ロボットの操作部
(コンソール)デュアルコンソール
(二人での手術が可能)術者の指と足で操作
手術用ロボットの本体
ステレオビューワ
(高解像度の3D画像での手術が可能)
(マイクとスピーカーで手術室内のスタッフとのコミュニケーションが可能)
- <ダビンチXiによるロボット支援下手術の実際>
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ロボット支援下の直腸手術
(直腸後腔の剥離)ロボット支援下の上行結腸手術
(体腔内吻合)
3.局所進行直腸がんに対する当院の取り組み
直腸がんは、「早期直腸がん」と「進行直腸がん」の2つに分けられ、直腸壁の筋層に達するか超えていれば進行直腸がんと判定されます。当院は直腸がん、特に進行直腸がんの比率が高いことが特色にあるため、局所進行直腸がんに対する術前治療(TNT)に力を入れています。
*TNT(Total neoadjuvant therapy):術前治療(放射線治療および化学療法)
- 局所進行直腸がんに対する術前治療の効果(参考)
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【大腸内視鏡検査】
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【造影CT検査】
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【骨盤MRI検査】
注:現段階での局所進行直腸がんに対する標準治療は手術+術後補助化学療法です。
強力な術前治療(TNT)は開発中の治療であり、臨床試験として実施されております。
4.進行・再発大腸がんの治療について
- 4-1.高度進行・境界切除大腸がんに対する治療
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当院では、泌尿器科や婦人科、整形外科、形成外科など、複数の診療科と協力して、高度進行や境界切除可能な大腸がんに積極的な手術治療を行っています。例えば、がんが膀胱や婦人科臓器にがんが浸潤している場合や、仙骨に近接しているような場合などです。直腸がんでは、腫瘍内科や放射線腫瘍科との連携により、術前化学療法や化学放射線療法を行い、直腸がん手術後の局所再発率の低下や肛門の温存を目指しています。
- 4-2.転移を伴う大腸がんに対する治療
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大腸がんの遠隔転移では、肝臓が最も多く、次いで肺が多く見られます。また、結腸がんでは、肝転移に次いで腹膜播種(お腹の中にがん細胞がばら撒かれた状態)が多いです。診断時に遠隔転移が見られても、諦める必要はありません。肝転移が軽度の場合、大腸がんの切除と同時の切除や抗がん剤治療後の肝切除で、高い治癒率が期待されます。肺転移の場合も、抗がん剤治療後に可能であれば外科的切除を行います。進行が進んでいる場合は、まず抗がん剤治療を行い、根治切除が可能であれば外科的切除を行います。外科的な根治切除が難しい場合は、抗がん剤治療や放射線治療などを行います。大腸がんの進行によって腸閉塞や出血症状がある場合、手術で症状を改善し、その後に抗がん剤治療を行います。
- 4-3.大腸がんの再発に対する治療
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結腸がん手術後の再発では、肝臓や肺、直腸がんでは肝臓や肺、そして局所再発が多く見られます。再発が診断された場合、抗がん剤や放射線治療などの総合的な治療を行います。これらの治療によって外科的切除が可能であれば、積極的に行います。直腸がんの局所再発で他臓器への転移がない場合、骨盤内臓全摘術も選択肢の一つとなります。この場合には、泌尿器科、婦人科、整形外科や形成外科などの多くの診療科と連携して手術を行います。直腸がんの局所再発の場合、重粒子線治療も強力な治療法として考慮されます。ただし、他の臓器への転移がない場合に適用されます。
外科的切除が不可能な場合、主に腫瘍内科や放射線腫瘍科と連携して治療を行います。近年では大腸がんに対する抗がん剤や分子標的薬が進歩しており、いくつかの薬剤を組み合わせて治療を行うことで、がんの進行を抑え、生存期間を延ばすことが可能です。大腸がんの治療では、RAS や BRAF、MSI などのがん細胞の遺伝子変異を調べ、適切な分子標的薬を選択します。また、当院は「がんゲノム医療連携病院」として指定されており、標準治療を終えた進行・再発のがん患者様に対して、がん遺伝子パネル検査を行うことで、新しく開発中の治療法(治験や臨床試験)に参加することができます。
治療成績について
1.術後の縫合不全発生率
- ・大腸がん手術において最も重篤な合併症の一つです。
- ・縫合不全が起こった場合、一時的な人工肛門造設が必要となる可能性が高く、QOL(生活の質)を低下させる可能性があります。
- 術後縫合不全は局所再発のリスクが高くなる可能性があるとも言われています。
- 直腸がん手術の縫合不全発生率(2014年〜2023年)
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年 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 縫合不全(%) 0.9% 0% 2.5% 1.7% 0.7% 2.1% 0% 0.7% 1.2% 1.5% 0.5% 当院の術後縫合不全発生率は1%程度であり、安全な医療を提供しています。
2.ステージ別の生存率(2014〜2018年)
結腸がん手術症例:5年全生存率
直腸がん手術症例:5年全生存率
当科で行なっている臨床試験
当科では大腸がんの治療を専門とする病院で行っている臨床研究グループに参加しております。現在、登録進行中の臨床試験は下記の通りです。
- Japan Clinical Oncology Group (JCOG)研究
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略称 研究課題名 登録状況 JCOG2207 臨床病期Ⅲの下部直腸癌に対する total neoadjuvant therapy(TNT)および選択的側方リンパ節郭清の意義に関するランダム化比較第Ⅲ相試験 登録中 JCOG2010 下部直腸癌に対する total neoadjuvant therapy(TNT)およびwatch and wait strategy の第 II/III 相単群検証的試験 登録中 JCOG2006 切除可能な局所高度進行結腸癌に対する術前 mFOLFOX6 療法と術前 FOLFOXIRI 療法のランダム化第 II 相試験 登録中 JCOG1503C Stage III 治癒切除大腸癌に対する術後補助療法としてのアスピリンの有用性を検証する二重盲検ランダム化比較試験(JCOG1503C, EPISODE III) 登録中 JCOG1502C 治癒切除後病理学的 StageI/II/III 小腸腺癌に対する術後化学療法に関するランダム化比較第 III 相試験 登録中 JCOG1805 「再発リスク因子」を有する StageII 大腸癌に対する術後補助化学療法の有用性に関するランダム化第 III 相比較試験 登録中 - 大阪大学消化器外科共同研究会 大腸疾患分科会
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略称 研究課題名 登録状況 SENJYO
試験局所進行結腸癌の腹腔鏡手術中の腹腔内大量洗浄(EIPL)の意義局所進行結腸癌の腹腔鏡手術中の腹腔内大量洗浄(EIPL)の意義 登録中 AMBITION
試験T2 進行直腸癌に対する術前放射線療法ならびに術前化学療法の有効性と安全性を検討する臨床第 II 相試験 登録中 OSNA 試験 pStageⅡ大腸癌に対する OSNA 法によるリンパ節微小転移診断意義の検討 登録中 – 大腸癌肝転移を対象とした前向きレジストリ研究 登録中 – 進行再発大腸癌の希少フラクションにおけるリアルワールドデータ作成のための前向き多機関共同研究 登録中 ASPIRE試験 腹腔鏡下直腸切断術における骨盤内腹膜欠損部に対する癒着防止材の有効性に関する多施設共同ランダム化比較試験 登録開始 - 大腸癌研究会
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略称 研究課題名 登録状況 – 直腸癌手術における適切な肛門側切離端までの距離と外科剥離面までの距離に関する多施設前向き観察研究 登録中 – Stage Ⅱ大腸癌のハイリスク因子に関する前向き観察研究 登録中 – 直腸癌術後局所再発に対する治療の最適化に関する研究 登録中 – 大腸癌腹膜播種の Grading 登録中 - 治験
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略称 研究課題名 登録状況 AZUR-2 未治療のdMMR/MSI-H を有する Stage II/III 局所進行結腸癌患者を対象とした周術期治療としての dostarlimab 単剤療法と標準治療を比較する の第Ⅲ相非盲検無作為化試験 登録中 TRM270 直腸癌の腹腔鏡下手術又はロボット支援下手術を受ける患者を対象として TRM-270 の有効性、安全性及び操作性をセプラフィルムと比較する検証的試験 登録中